富山市科学文化センター研究報告第18号(1995)

要約集

原 著  

生物系

布村 昇:大槌湾産のヘラムシの一種(英文)

根来 尚:呉羽丘陵におけるハナバチ相の生態的調査(II)

佐藤 卓・平内好子・松村 勉:瀬戸蔵山ブナ林の森林構造と土壌動物相

理工系

石坂雅昭・小林敏一:日本の積雪堆積環境データーベースについて

天文

渡辺 誠・布村克志・松村 巧:山口県宇部市及び新潟県越路町所蔵の渾天儀の特徴

短 報  

根来 尚:常願寺河原のアリ類2種

太田道人:富山県新記録の植物\

朴木英治・南部久男:富山県立山町のヤマサンショウウオ(Hynobius tenuis)の産卵場所の水質

朴木英治:タテヤママリモ生育水の水質

朴木英治・若菜 勇:富士北麓マリモ生育湖沼の水質

資 料  

石坂雅昭:富山市の平地積雪断面測定資料報告:1993ー1994年冬

 

 

 

富山市科学文化センター

 原 著     

大槌湾産のヘラムシの一種

布村 昇

富山市科学文化センター

東大海洋研究所の竹内一郎氏が岩手県大槌湾の水深5mの藻場から採集した見慣れないヘラムシの標本の研究依頼を受けた。研究の結果、この標本は、北日本の藻場に普通のオホーツクヘラムシ近い仲間であるが、体がより太く、第2触角が短く、鞭の数が少なく、胸脚が短い等の違いがみられ、既知種に該当しないことが判明した。

 ただ、これまで雌1個体が採集されているのみなので、新種の記載は差し控えた。なお、本標本は富山市科学文化センター(TOYA Cr-11526)で保管されている。

 

呉羽丘陵におけるハナバチ相の生態的調査(II)

根来 尚

富山市科学文化センタ−

富山県下のハナバチ相調査ならびに訪花性等生態調査の一環として、1993年、富山市呉羽丘陵(呉羽山、城山)において、ハナバチ類の生態的調査を行った。呉羽山からは61970種(1292個体)のハナバチ(ミツバチは除く)が得られた。コハナバチ科とケブカハナバチ科が各々個体数、種数において優勢な科であった。採集個体の約32%がキク科植物花上で得られ、同科植物が最も優勢な被訪花植物であった。これらのことは、北陸地方の平地において共通する事柄である。城山においては、1992年の調査に比べ、種数で約70%個体数で約60%と少なく、これは伐採などによる開花量の減少によるものと考えられた。

 

瀬戸蔵山ブナ林の森林構造と土壌動物相

佐藤 卓1)・平内好子2)・松村 勉3)

1)富山県立雄峰高等学校 2)富山県立新川女子高等学校 3)富山県立呉羽高等学校

富山県大山町瀬戸蔵山のブナ林の群落構造、落葉量の測定、土壌動物の種類組成を観察した。

 樹木分布がランダム分布であること、樹高階級と胸高直径階級分布が連続し、実生も多く分布することから、このブナ林は極相林と考えられた。年間落葉量は2.8tonha/年で、地上部純生産量は、11.8tonha/年と推定された。春から秋にかけてのブナ実生の平均密度の減少は、林床の相対照度の変化と関係があることが明らかになった。なお、土壌動物相は、他地域のブナ林とよく似ていることが判明した。

 

 

日本の積雪堆積環境データーベースについて

石坂雅昭1)・小林敏一2)

1)富山市科学文化センター 2) 富山コンピュータ専門学校

 積雪を考える場合には、従来は積雪の深さという量的な側面に多く注意が払われていたが、この研究では、新たに「雪質」という質的な観点を加えて多様な日本列島の積雪地域の雪環境を考えた。その際、気象庁が国土情報整備事業により作成した全国1kmメッシュの気候値を使い,数量化されたデータで全国1キロ単位の雪環境データベースを作り、例えば、湿り雪はどこに分布するかとか、富山市と同じような雪環境の地点はどこに分布するかなどが、地図上で分かるようにした。今後、雪対策や利用について、きわめて実践的に有用なものになると期待される。

 

山口県宇部市及び新潟県越路町所蔵の渾天儀の特徴

渡辺 誠1)・布村 克志1)・松村 巧2)

1)富山市科学文化センター 2)山口県下松町

 山口県宇部市及び新潟県越路町に渾天儀が所蔵されていることがわかり調査を行った。

宇部市のものは、天の南北極を結ぶ軸で回転する説明用、越路町のものは2つの軸で回転する説明用渾天儀であることが判明した。その結果、日本に現存する渾天儀は31基となった。

 短 報     

常願寺河原のアリ類2種

根来 尚

富山市科学文化センター

常願寺川中流(大山寺)から河口までの河川敷調査で、エゾクシケアリ(富山県初記録)とカワラケアリ(富山県の河川敷では初記録)の2種のアリが確認された。その結果、富山県のアリは63種となった。

 

富山県新記録の植物\

太田道人

富山市科学文化センタ−

 富山県の植物相研究の一環として、県内で初めて記録されることとなる植物を毎年報告している。1994年は、ミヤマノコギリシダ、ヤマトミクリ、サナギイチゴなど18種の植物の産地データを掲載した。うち、6種は、大田弘氏寄贈の植物コレクションに含まれていたものである。

 

富山県立山町のヤマサンショウウオ(Hynobius tenuis)の産卵場所の水質

朴木英治、南部久男

富山市科学文化センター

日本産のサンショウウオ類の産卵場所の水質に関する報告は極めて少ない。今回、止水産卵型のヤマサンショウウオの2ヶ所の産卵場所の水質について報告した。ヤマサンショウウオの産卵場所の水質の特徴は、産卵場所が河川源流部周辺に位置するために溶存成分濃度が低く、呉羽丘陵に生息するホクリクサンショウウオの産卵場所に比べてほとんどの成分濃度は1/2程度しかない点である。

 

タテヤママリモ生育水の水質

朴木 英治

富山市科学文化センター

 国内のごく一部の自然湖沼にのみ生育するマリモが、常願寺川扇状地上に位置する富山県立山町野口地区の民家の人工池に繁殖している。この池の給水井戸の水質を報告した。この給水井戸の水質の特徴は、陰イオンでは総アルカリ度、硫酸イオン濃度が、陽イオンではカルシウムイオン・マグネシウムイオン濃度が高く濃度が高い点で、さらに、栄養塩の硝酸イオン濃度が河川水などに比べるとかなり高いことである。

 

富士北麓マリモ生育湖沼の水質

朴木 英治1)若菜 勇2)

1)富山市科学文化センター 2)阿寒町公民館**

 富士五湖として知られる富士北麓の湖沼群のうち、フジマリモの生育する山中湖、河口湖及び西湖の湖水について、従来あまり検討されていない主要溶存成分の分析結果を報告した。

溶存イオンの総量を指標する導電率は河口湖が最も高く、西湖が最も低かった。また、1979年に報告された値と同程度で、水質の経年変動は少ないもの思われる。

 資 料    

富山市の平地積雪断面測定資料報告:1993ー1994年冬

石坂雅昭

富山市科学文化センター

 富山市の平野部の積雪の観測調査の一つとして、城南公園で行った1993年12月から1994年3月までの積雪の断面観測の結果を示した。これは、1981年から毎冬行っている継続調査である。