富山市科学文化センター研究報告第19号(1996)
要約集
原 著
地学系
後藤道治・荒木まどか・友野眞也: 立体写真を使った恐竜の足跡化石の描写法
生物系
長井幸雄・太田道人: 富山県産ユリ科植物の分布
理工系
朴木英治: 雪雲の移動に伴う降水中のnss-硫酸イオン濃度の変化
朴木英治: 常願寺川水系の水質
短 報
太田道人: 富山県新記録の植物 ]
宮本望・布村昇: 富山県で初めて発見されたカワヒバリガイ
南部久男: 富山県大山町で発見されたハコネサンショウウオの産卵場所
朴木英治・南部久男: 富山県大山町のハコネサンショウウオ産卵場所の水質
南部久男: 富山市呉羽丘陵におけるハコネサンショウウオの記録
朴木英治: 常願寺川扇状地地下水の水質
朴木英治: 富山県・石川県の山地・丘陵地湧水の水質
吉村博儀: 魚津市海岸における蜃気楼出現時の気象データの特徴
資 料
南部久男: ヤマサンショウウオの産卵状況、卵数及び卵嚢の形態
朴木英治: 酸性雨観測記録(1991年4月〜1995年12月)
石坂雅昭: 富山市の平地積雪断面測定資料報告 1994-95年冬
富山市科学文化センター
原 著
立体写真を使った恐竜の足跡化石の描写法
後藤道治1)・荒木まどか2)・友野眞也3)
1)、2) 富山市科学文化センター、3)富山市
恐竜の足跡化石の描写法には様々な方法があるが、今回は、航空写真などの視差のある二枚の立体写真から高さの数値データを求め、そのデータに基づいて恐竜の足跡化石の形態をコンピュータを使って描写した。この結果、恐竜の足跡化石について、ほとんど主観的操作の入らない客観的数値データを得ることができ、さらに、数値データに基づいた表層グラフ(ワイヤーフレーム図)や等高線図などの描写が可能になった。
富山県産ユリ科植物の分布
長井幸雄1)・太田道人2)
1)富山県総合教育センター、2)富山市科学文化センター
富山県下に自生する70種10変種2品種のユリ科植物全82種類について、コンピュータにより水平分布図と垂直分布図が初めて作成された。各種の垂直分布域に基づいて類型化した結果、10の分布類型に区別できた。
雪雲の移動に伴う降水中のnss-硫酸イオン濃度の変化
朴木英治
富山市科学文化センター
冬期の北西季節風に乗って中国大陸から輸送されてきた非海塩性硫酸イオンの濃度が、陸上でどのように減衰するのか、雪雲の移動経路に沿って石川県の海岸線から富山県の平野部にかけて、新雪を採取して分析を行った。その結果、強い冬型気圧配置でまとまった降雪があった場合は、海岸線から離れるにつれて非海塩性硫酸イオンの濃度は減少した。一方、弱い冬型気圧配置による雪では、内陸で非海塩性硫酸イオン濃度が増大する現象が見られた。
常願寺川水系の水質
朴木英治
富山市科学文化センター
常願寺川水系の水質は、硫酸イオン濃度、総アルカリ度、カルシウムイオン濃度が県内河川の平均水質に比べて高い特長がある。これらの特長のうち、硫酸イオン濃度が高い原因は、支流の湯川上流にある新湯、および、称名川上流にある地獄谷の酸性温泉の影響と考えられる。一方、総アルカリ度、および、カルシウムイオンの供給源は、常願寺川上流部から支流の和田川流域にかけて分布する石灰岩を含む飛騨片麻岩類と推定できた。
短 報
富山県新記録の植物]
太田道人
富山市科学文化センタ−
富山県の植物目録に追加すべき、次の5種の植物を記録した。
1.タマコウガイゼキショウ(イグサ科) 2.ミカヅキグサモドキ(カヤツリグサ科)
3.アメリカホド(マメ科) 4.ヤナギタンポポ(キク科)
5.トゲチシャ(キク科)
富山県で初めて発見されたカワヒバリガイ
宮本望1)・布村昇2)
1)富山市、2)富山市科学文化センタ−
イガイ科二枚貝のカワヒバリガイ Limnoperna fortunei fortunei が、射水郡の下条川で、富山県で初めて記録された。流木、輸入材もしくは小型船舶に付着して入り、その後、偶発的にはずれ、下条川に流れ込んだものでないかと考えられる。
富山県大山町で発見されたハコネサンショウウオの産卵場所
南部久男
富山市科学文化センター
ハコネサンショウウオは、本州や四国の山地に広く生息するが、その産卵場所は日本でも確認例が極めて少ない。富山県でも確認記録はなかったが、大山町で偶然発見されたので、産卵地点の概要や卵嚢の形態等を報告した。
富山県大山町のハコネサンショウウオの産卵場所の水質
朴木英治・南部久男
富山市科学文化センター
日本産のサンショウウオ類の産卵場所の水質に関する報告は極めて少ない。今回、大山町で偶然発見されたハコネサンショウウオの産卵場所の水質を報告した。水質は、pHが6.3と弱酸性を示し、電気電導度も低く、総アルカリ度や各溶存成分濃度もやや低いことが明かとなった。
富山市呉羽丘陵におけるハコネサンショウウオの記録
南部 久男
富山市科学文化センター
富山市呉羽丘陵に、富山県の丘陵地帯では記録のないハコネサンショウウオが、過去に生息していたことが寄贈標本より明かとなった。確認した標本は、全長61.4mmの変態前の幼生1個体で、1976年(昭和51年)に呉羽丘陵(城山)で採集されたものである。
常願寺川扇状地地下水の水質
朴木英治
富山市科学文化センター
常願寺川の水質と扇状地地下水の水質との比較を行った。扇状地右岸側の富山市長江はカルシウムイオン濃度、総アルカリ度が高く支流の和田川の水質パターンに近いことが分かった。これは、常願寺川上流部から供給され扇状地地下に堆積している石灰岩からの溶出と考えられる。左岸側の立山町野口は常願寺川の横江堰堤の水質に近いものであった。また、両者の地下水とも硝酸イオン濃度がやや高かったが、おそらく水田施肥によるものと考えられる。
富山県・石川県の山地・丘陵地湧水の水質
朴木英治
富山市科学文化センター
降水中の塩化物イオン濃度が、陸水の塩化物イオン濃度にどう反映されているかを詳しく知る目的で、集水面積が比較的狭いと考えられる山地・丘陵部の湧水の水質を調査し、塩化物イオン濃度と海岸線からの距離との関係を検討した。その結果、氷見の丘陵地では富山湾の影響と考えられる濃度の増大が見られるが、石川県の海岸線から富山県内に向かうにつれて塩化物イオン濃度が減少する傾向が見られた。
魚津市海岸における蜃気楼出現時の気象データの特徴
吉村博儀
富山市科学文化センター
蜃気楼出現時における魚津市海岸での気象の特徴を調べるため1993年から1995年まで風向風速および気温を測定した。多くの蜃気楼は海風日に現れるが、その出現時間帯において海風日より風は弱く、その差は最大で2.1m/sである。風向はほとんどの場合北北西〜北東の間である。気温は海風日より高く、その差は最大で2.7℃である。また、上昇を続けていた気温が蜃気楼出現時にいったん下降する例がみられた。
資 料
ヤマサンショウウオの産卵状況、卵数及び卵嚢の形態
南部久男
富山市科学文化センター
ヤマサンショウウオは、富山県南部と岐阜県北部の山地に分布するが、その生態等については不明な点が多い。今回、1982〜1994年にかけ富山県9ヶ所と岐阜1ヶ所で調査を行い、産卵地点の概要や卵嚢の形態等を報告した。
酸性雨観測記録(1991年4月〜1995年12月)
朴木英治
富山市科学文化センター
1991年4月から1995年12月までの酸性雨観測結果について報告した。年間の平均pHは1991年度
4.77、1992年度4.70、1993年度4.85、1994年度5.0と、やや上昇傾向であった。平均pHを季節別に見ると、夏期よりも冬期の方が若干低かった。
富山市の平地積雪断面測定資料報告:1994ー95年冬
石坂雅昭
富山市科学文化センター
富山市の平野部の積雪の観測調査の一つとして、城南公園で行った1994年12月から1995年3月までの積雪の断面観測の結果を示した。これは、1981年から毎冬行っている継続調査である。
産卵場所は、大山町小佐波小佐波御前山中腹の標高約550mの地点で、1995年6月27日の調査で、卵嚢32対が確認された。
産卵場所周辺の植生は、ブナ林、オノエヤナギ林・ダケカンバ林、ミズナラ林であった。産卵場所は、谷周辺部の湿地等の流れのない水溜まりで行われ、水深は、10cm以内のことが多い。卵嚢は透明で、倒木、蘚苔類、葉、枝等に付着していた。卵嚢の大きさは、発生段階10で、長さ97mm、幅12mm程であった。一腹(1対)卵数は、平均で約31個であった。
常願寺川扇状地地下水の水質
朴木英治
富山市科学文化センター
常願寺川の水質の特長は、原著論文の常願寺川水系の水質で報告してあるが、常願寺川の水質と扇状地地下水の水質との比較を行うため、扇状地右岸側の富山市長江、および、左岸側の立山町野口の地下水について若干の調査を行った。
富山市長江はカルシウムイオン濃度、総アルカリ度が高く支流の和田川の水質パターンに近い。おそらく、常願寺川上流部から供給され扇状地地下に堆積している石灰岩からの溶出であろう。立山町野口は横江堰堤での常願寺川の水質に近いものであった。また、両者の地下水とも硝酸イオン濃度がやや高かったが、おそらく水田施肥によるものと考えられる。
富山県・石川県の山地・丘陵地湧水の水質
朴木英治
富山市科学文化センター
温泉や排水の流入のない河川水中の塩化物イオンは降水などて輸送された海塩が起源である。富山県内の河川の塩化物イオン濃度は石川県内の河川と比較して低い特長があり、降水中の海塩成分の平均濃度が石川県に比べて低いことが原因として考えられる。
本調査では、降水中の塩化物イオン濃度が陸水の塩化物イオン濃度にどう反映されているかを詳しく知る目的で、集水面積が比較的狭いと考えられる山地・丘陵部の湧水の水質を調査し、塩化物イオン濃度と海岸線からの距離との関係を検討した。その結果、氷見の丘陵地では富山湾の影響と考えられる濃度の増大が見られるが、石川県の海岸線から富山県内に向かうにつれて塩化物イオン濃度が減少する傾向が見られた。
魚津市海岸における蜃気楼出現時の気象データの特徴
吉村博儀
富山市科学文化センター
蜃気楼出現時における魚津市海岸での気象の特徴を調べるため1993年から1995年まで風向風速および気温データを測定した。多くの蜃気楼は海風日に現れるが、その出現時間帯において海風日より風は弱く、その差は最大で2.1m/sである。風向はほとんどの場合北北西〜北東の間である。気温は海風日より高く、その差は最大で2.7℃である。また、上昇を続けていた気温が蜃気楼出現時にいったん下降する例がみられた。
資 料
ヤマサンショウウオの産卵状況、卵数及び卵嚢の形態
南部久男
富山市科学文化センター
ヤマサンショウウオは、富山県南部と岐阜県北部の山地に分布するが、その生態等については不明な点が多い。今回、1982〜1994年にかけ富山県9ヶ所と岐阜1ヶ所で調査を行い、産卵地点の概要や卵嚢の形態等を報告した。
酸性雨観測記録(1991年4月〜1995年12月)
朴木英治
富山市科学文化センター
富山市科学文化センターで昭和1988年から継続している酸性雨観測の結果の内、データ未報告分の1991年4月から1995年12月までの観測結果について、各調査データ、および、月別の集計データを報告する。年間の平均pHは1991年度4.77、1992年度4.70、1993年度4.85、1994年度5.0と、やや上昇傾向であった。平均pHを季節別に見ると、夏期よりも冬期の方が若干低かった。
富山市の平地積雪断面測定資料報告:1994ー95年冬
石坂雅昭
富山市科学文化センター
富山市の平野部の積雪の観測調査の一つとして、城南公園で行った1994年12月から1995年3月までの積雪の断面観測の結果を示した。これは、1981年から毎冬行っている継続調査である。