研究報告第22号(1999)要約集
富山市科学文化センター
原 著
生物系
布村 昇:紀伊半島富田川河口から発見されたイソコツブムシ属の一種(英文)-------------- 1
布村 昇:伊豆諸島産海浜性等脚目甲殻類(英文)----------------------------------------- 1
宮本 望・布村 昇:富山県高岡市雨晴産海産貝類------------------------------------------ 1
根来 尚:金沢城跡(旧金沢大学構内)におけるハナバチ類の訪花性-------------------------- 2
根来 尚:立山高山域におけるハナバチ相の生態的調査------------------------------------ 2
上原千春・鈴木邦雄:本州中部地方に生息するオトシブミ類(鞘翅目、オトシブミ科)の
寄生植物-------------------------------------------------------------------- 2
太田道人:富山県シダ植物チェックリスト------------------------------------------------- 3
佐藤 卓・平内好子・野口 泉:富山県氷見市床鍋のモミ林の森林構造------------------------ 3
佐藤 卓・平内好子・野口 泉:富山県宇奈月町黒薙のツガ林の森林構造---------------------- 3
根来 尚・荒木克昌:高岡市でのタンボコオロギの採集記録---------------------------------- 4
林 文男・根来 尚・倉西良一:富山県産センブリ科(広翅目)目録-------------------------- 4
稲村 修・北村永晴・荒木克昌:富山県黒部川水系からのエゾホトケドジョウの記録----------- 4
太田道人:富山県初記録の植物]U ------------------------------------------------------ 5
石須秀知:富山県フロラに追加される植物 ------------------------------------------------ 5
T明治・大正時代の富山県における哺乳類の毛皮及び狩猟等の統計----------------- 5
Uナチュラリストからの報告-------------------------------------------------- 5
V博物館資料からの報告------------------------------------------------------ 6
朴木英治:富山市科学文化センターにおける酸性雨観測結果(1996年1月―1998年3月)----- 6
<原 著>
紀伊半島富田川河口から発見されたイソコツブムシ属の一新種
A New Species of the Genus Gnorimosphaeroma (Isopoda, Sphaeromatidae)
from the Mouth of Tonda River, Kii Peninsula, Southern Japan
布村 昇
富山市科学文化センター
和歌山県白浜町富田川河口から採取された5頭のイソコツブムシ属の標本を新種Gnorimosphaeroma tondaense(和名:トンダガワイソコツブムシ)として記載した。本種は韓国から知られているGnorimosphaeroma anchialos Kwonと最もよく類似するが、(1)第2小顎の剛毛数が少ないこと(2)、尾肢外肢が短いこと、(3)第1胸肢の長節外縁の剛毛数が少ないこと、(4)両触角とも鞭数が多いことで区別される。
伊豆諸島産海浜性等脚目甲殻類
Marine Isopod Crustaceans Collected from Izu Islands, Middle Japan
布村 昇
富山市科学文化センター
伊豆諸島においては、従来ほとんど、海浜産等脚類についての分類学的研究がを行われたことはなかったので、八丈島、三宅島と式根島の潮間帯から飛沫帯、一部亜潮間帯の見付け取りを中心として現地調査を行った。八丈島では神湊、屋ケンゲ浜、大浦など、三宅島では長太郎池、錆が浜、伊谷大船戸など、式根島では石白川、大潟浦等で調査を行った。その結果、
24種を確認した。うち、純海産種は14種であった。また、そのうち、9種が新種であることが判明した。それらの標本は富山市科学文化センターにおいて保管される。新種はミズムシ亜目フトヒゲヒラタウミミズムシ、有扇亜目スナホリムシ科のリュウコツスナホリムシモドキ、コツブムシ科ハチジョウイソコツブムシ、シキネイソコツブムシ、 カナエウミセミ、ワラジムシ亜目フナムシ科ハチジョウフナムシ、ミヤケフナムシ、ヒゲナガワラジムシ科ハチジョウミギワワラジムシ、ミヤケミギワワラジムシである。富山県高岡市雨晴産海産貝類
Sea Shells from Amaharashi and Its Neighboring Coast, Toyama Bay, the Sea of Japan
宮本 望1)・布村 昇2)
1)富山市梅沢町、2)富山市科学文化センター
高岡市雨晴海岸と周辺海岸の海岸の貝類を調査したところ、多板殻綱
6種、腹足綱186種、二枚貝綱83種、掘足綱7種、頭足綱1種の計283種を確認した。これは富山湾から能登半島にかけて海岸産貝類の既知数の半数にあたり、比較的岩礁を好む仲間の比率が高い。金沢城跡(旧金沢大学構内)におけるハナバチ類の訪花性
Flower-visiting Habits of Wild Bees in the Site of Kanazawa Castle (the Old Campus of
Kanazawa University), Hokuriku, Japan
根来 尚
富山市科学文化センター
1975年4月〜10月、金沢城跡(旧金沢大学構内)において、ハナバチ類訪花習性調査を行った。32科85種の植物がハナバチ類の訪花を受けた。訪花ハナバチ類は6科 18属66種1805個体であった。最も多くのハナバチ個体が訪花した植物は、ヒメジョオンで234個体(23種)、最も多くの種が訪花した植物は、ウマノアシガタで28種(227個体)であった。また、最も多くの植物を訪れたハナバチは、アカガネコハナバチで32種304個体、次いでキオビツヤハナバチで30種162個体であった。訪花個体数の多い植物への訪花ハナバチ類・優勢なハナバチ類数種の訪花特性、同時期に開花する植物に訪花するハナバチ類の差について若干の考察を行った。
立山高山域におけるハナバチ相の生態的調査
A Wild Bee Survey in the Alpine Zone of Mt.Tateyama,
Toyama Prefecture, Hokuriku, Japan
根来 尚
富山市科学文化センタ−
1996年〜1998年,富山県東部の立山高山域において,ハナバチ類の生態的調査を行った。立山の高山域からは、5科8属19種(1286個体)のハナバチ類が確認された。ミツバチ科マルハナバチ属が個体数で圧倒的に優勢で、全個体数の約70%がそうであった。コハナバチ科カタコハナバチ属とヒメハナバチ科ヒメハナバチ属(共に約15%)が次ぎ、ムカシハナバチ科・コシブトハナバチ科は極少数の個体が確認されたにすぎない。種数では、ヒメハナバチ科(全てヒメハナバチ属)が6種、コハナバチ科が6種、ミツバチ科が4種であり、ムカシハナバチ科は2種、コシブトハナバチ科は1種であった。被訪花植物は19科53種で、キク科への訪花個体数が最も多く全個体の33%、次いでツツジ科18%、バラ科16% の順であった。訪花種数でもキク科が12種で最も多く、次いでバラ科で11種、ツツジ科7種であった。
本州中部地方に生息するオトシブミ類(鞘翅目,オトシブミ科)U
Host Plants of the Subfamilies Apoderinae and Attelabinae (Coleoptera, Attelabidae)
in the Chubu District, Central Honshu, Japan (
U)上原千春
1)・鈴木邦雄2)1
)琵琶湖博物館、2)富山大学理学部生物学教室前報(上原・鈴木,1998a)に続いて,1998年4〜9月における野外観察と揺籃の室内飼育の結果に基づいて
,本州中部地方4県(富山・石川・岐阜・長野県)に生息するオトシブミ亜科とアシナガオトシブミ亜科(鞘翅目,オトシブミ科)計8属20種の寄主植物(食用植物を含む)計156種(うち13種は,Uehara & Suzuki,準備中で新たに記録される)を報告した。本科の寄主植物選好性をめぐる若干の一般的問題を論議した。富山県シダ植物チェックリスト
A Checklist of Fern and Fern Allies in Toyama Prefecture, Central Japan
太田道人
富山市科学文化センター
富山県のシダ植物相を把握するために、標本、文献、目撃による情報を総合してチェックリストを作成した結果、250種類がリストアップされた。うち240種類は標本に基づくもので、残り10種類は文献または目撃によるものであった。
チェックリストから、富山県中央部に位置する主として水田と市街地からなる地域の植物相調査が欠如していることが指摘された。また、富山県内において分布地域の限られている種については、絶滅の恐れがあるかどうかを調査する必要があると考えられた。
富山県氷見市床鍋のモミ林の森林構造
Stand Structure in Abies Firma Forest on Tokonabe,
Himi-shi, Toyama Prefecture, Japan
佐藤 卓1)
・平内好子2)・野口 泉3)1
)富山県立上市高等学校、2)富山県立新川女子高等学校、3)富山県立雄山高等学校
富山県氷見市床鍋にあるモミ林に、20m×20mの調査区を設け林分構造を調べた。1998年5月、樹高2m以上の樹木について、胸高直径、樹高、樹冠のサイズ、樹木の位置、種名を記録した。調査区からは115個体、25種の樹木が認められ、密度は2875本/ha、基底面積合計は82.5u/ha、であった。基底面積合計の値はモミが最も大きく、次いでコナラであつた。ヤブツバキとウラジロガシ、ヒサカキ、アオハダは個体密度は大きな値を示したが、基底面積合計の値は小さな値であった。種多様性指数(α)は9.4で、愛媛県米野々のモミーツガ林より小さな値であったが、県内の照葉樹林の値よりも大きな値であった。モミの分布様式は規則分布で、ヤブツバキとウラジロガシ、ヒサカキは集中分布を示した。M-w 図解析では3つの階層構造が認められた。
富山県宇奈月町黒薙のツガ林の森林構造
Stand Structure in Tsuga Sieboldii Forest on Kuronagi,
Unazuki-machi, Toyama Prefecture, Japan
佐藤 卓1)
・平内好子2)・野口 泉3)1)富山県立上市高等学校、2)富山県立新川女子高等学校、
3)富山県立雄山高等学校
富山県宇奈月町黒薙にあるツガ林に、20m×13mの調査区を設け林分構造を調べた。1998年7月、樹高2m以上の樹木について、胸高直径、樹高、樹冠のサイズ、樹木の位置、種名を記録した。調査区からは62個体、19種の樹木が認められ、密度は2493本/ha、基底面積合計は102.4u/ha、であった。基底面積合計の値はツガが最も大きく、次いでミズナラであつた。ネジキとマンサクは個体密度は大きな値を示したが、基底面積合計の値は小さな値であった。種多様性指数(α)は8.2で、愛媛県米野々のモミ、ツガ林より小さな値であったが、県内の照葉樹林の値よりも大きな値であった。ツガの分布様式は規則分布で、ネジキとマンサクは集中分布を示した。M-w 図解析では3つの階層構造が認められた。
<短報>
高岡市でのタンボコオロギの採集記録
A Record of Modicogryllus siamensis at the Dry Riverbed
of the Oyabegawa River
根来 尚1)・荒木克昌2)
1)富山市科学文化センター、2)アースコンサル(株)
このほど、富山県西部の河川敷からタンボコオロギが採集された。確実な記録としては富山県初である。採集記録は以下のとおり。
タンボコオロギ1♀
, 1997年6月9日、高岡市守護町小矢部川左岸河川敷
富山県産センブリ科(広翅目)目録
Alderflies (Megaloptera: Sialidae) of Toyama Prefecture, Central Japan
林 文男1)・根来 尚2)・倉西良一3)
1)東京都立大学理学部生物学科、2)富山市科学文化センター、
3)千葉県立中央博物館
富山県産センブリ類として、ネグロセンブリ、フタオセンブリ、クロセンブリ富山亜種の3種が記録された。フタオセンブリは本州の一部でのみ発見されている。クロセンブリ富山亜種は富山県内のみで発見されている。
富山県黒部川水系からのエゾホトケドジョウの記録
The Record of Lefua nikkonis at the Kurobe River
in Toyama Prefecture
稲村 修1)・北村永晴2)・荒木克昌2)
1)魚津水族博物館、2)応用地質(株)
エゾホトケドジョウは北海道や青森県に生息するドジョウ科フクドジョウ亜科の純淡水魚である(細谷,1993)。今回、富山県の黒部川河川敷に造成された墓ノ木自然公園内にある細流から、エゾホトケドジョウが捕獲された。 富山県では、大正から昭和初期の古い記録があるものの(市島,1926;1927)、その信頼性に疑問が呈されている(山下,1937)。また、黒部川内水面漁協が放流している魚類に混入してくる可能性も低く、人為的に放流されたと思われる。さらに、小型個体を多数確認している事から繁殖もしていると思われる。
富山県新記録の植物
]UAdditional Records to the Flora of Toyama Prefecture
]U太田道人
富山市科学文化センタ−
次の6種の植物を、証拠標本に基づき富山県ではじめて記録した。
ミヤマキヨタキシダ(オシダ科)
アカハナワラビ(ハナヤスリ科)
オニスゲ(カヤツリグサ科)
ナガミヒナゲシ(ケシ科)
モウズイカ(ゴマノハグサ科)
キヨスミウツボ(ハマウツボ科)
富山県フロラに追加される植物
New Records for Flora of Toyama
石須秀知
埋没林博物館
次の6種の植物を、証拠標本に基づき富山県ではじめて記録した。
オオフジシダ(コバノイシカグマ)
ハマチャヒキ(イネ科)
キレハイヌガラシ(アブラナ科)
オッタチカタバミ(カタバミ科)
コナミキ(シソ科)
オオアカネ(アカネ科)
<資料>
富山県で絶滅した大型動物(哺乳類・鳥類)の記録
T 明治・大正時代の富山県における哺乳類の毛皮及び狩猟等の統計
The Inhabited Records of the Animals Extinguished in Toyama Prefecture.
T
Results by Statistical Reports, 1873-1925南部久男
富山市科学文化センター
富山県の絶滅動物調査の一貫として、明治・大正時代における鳥獣の毛皮及び狩猟等の統計を調査した結果、カワウソ、シカ、イノシシの毛皮の統計の存在が明らかとなった。
カワウソ、ニホンジカの毛皮は明治20〜40年代に西砺波郡を中心に生産され、イノシシの毛皮は、明治30〜40年代に射水郡を中心に生産されていた。これらの動物は、大正末の富山県の狩猟統計には上がっていないことより、大正末にはほとんど生息していない状況になったものと推測される。
富山県で絶滅した大型動物(哺乳類・鳥類)の記録
U ナチュラリストからの報告
The Inhabited Records of the Animals Extinguished in Toyama Prefecture.
U
Informations from Naturalists南部久男
富山市科学文化センター
富山県の絶滅動物調査の一貫として、富山県鳥獣保護等にアンケート調査を行なった結果、イノシシ、ニホンジカ、コウノトリの情報が寄せられた。
イノシシやニホンジカの最近10年間程の情報には、飼育情報が多く含まれていると推測され、
10〜40年前までの目撃情報等は少なく、この時期には富山県には定着していなかったと推測された。なお、明治時代中期に高岡市の山間部で豪雪のため谷に集まってきたシカが捕獲され、この地域で絶滅したという貴重な情報も得られた。なお、コウノトリは、常願寺川でいずれも漂行個体と思われる目撃情報が寄せられたが、カワウソ、オオカミ、アシカ、トキの情報は得られなかった。富山県で絶滅した大型動物(哺乳類・鳥類)の記録
V 博物館資料からの報告
The Inhabited Records of the Extinct Animals in Toyama Prefecture.
V
Informations from Museums南部久男
富山市科学文化センター
富山県の絶滅動物調査の一貫として、富山県内の歴史系博物館等に、富山県で絶滅した動物の資料のアンケート調査を実施した。
高岡市古城公園動物園には、1978年に砺波市で捕獲されたイノシシの剥製が、氷見市立博物館には、シカあるいはイノシシを捕獲するために使用されたと思われる「シシヤリ」と朝日貝塚から出土したアシカの骨が収蔵されていることが明かとなった。富山県立山博物館及び福岡町歴史民俗資料館には、イノシシに関する江戸時代の古文書が収蔵されていた。
富山市科学文化センターにおける酸性雨観測結果
(1996年1月〜1998年3月)
Acid Rain Observation Data at the Toyama Science Museum
(Jan.1997-Mar.1998)
朴木英治
富山市科学文化センター
1996年1月〜1998年3月までの富山市科学文化センター屋上における酸性雨観測の結果を報告すると共に、観測を開始した1988以降のpH変化を夏季、冬季、年間平均グラフで報告した。最近3年間の推移で見ると平成7年度の降水の年間平均pHは 4.95 で、平成8年度は 4.83、平成9年度は 4.94 となり比較的良好な状態で推移していた。