湧水から栄養塩採取
マリモの研究B (第44回)



  
   
   立山町にあるタテヤママリモの育成実験池
   
 立山町のタテヤママリモが阿寒湖のマリモとは別種であることが分かり、タテヤママリモは”おみやげマリモ”が野外で増えたものではなく、自生種であることが確定的となった。一連の調査で、全国のマリモ生育地域や湖沼を見てきたが、まとまった量のマリモ類が自然の状態で間近に見られるのは全国でも立山町が唯一の貴重な場所である。

 完全な淡水を好み湧水帯や井戸水が入る池などに多く生育するタテヤママリモと、若干の塩分を好み湖沼に生育する阿寒湖などのマリモとでは環境の好みが違うように見えるが、両者に共通している重要なものが一つあった。それは湧水である。

 マリモの生育場所について文献を調べてみると、本州のマリモ生育湖沼ではマリモが湖底湧水のある所に多く生育しているらしいことが分かり、山梨県の西湖の調査の際、マリモ群落の中の水を注射器で採って調べてみた。その水質は湖水とは明らかに異なり、マリモの群落内に湖底湧水が流れていることが確認できた

 さらに、北海道の釧路湿原の中にある”おみやげマリモ”の故郷、シラルトロ湖の調査時にも、大群落内の水を調べた。湖水よりかなり塩分濃度の高い水が流れていたが、湿原の地下には縄文時代に取り残された海水が残っていて一部が湖底からわき出し、その上にマリモが大群落を作っていたのだ。阿寒湖の調査時にも大群落の下から鉱泉と思われる湧水が発見されている。

 湧水帯にマリモが生育する利点は大きい。湧水には多少の栄養塩を含んでいる場合があり、湧出点を押さえてしまえばそれを独占できる。特に湖沼で生育するマリモは、植物プランクトンや水草が栄養塩を奪い合い、利用できる栄養塩がほとんどない湖水を利用するより地下水を利用した方が生育に有利と考えられる。こう考えると、マリモもタテヤママリモも湧水に生育する共通の利点がさらにはっきりしてきた。(朴木英治 2000年6月8日掲載)




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