ワラジムシの南北戦争
外来種と在来種 (第57回)



  
   
   富山県の市街地で見られるワラジムシ。ヨーロッパ原産だ
   
 ワラジムシやダンゴムシの仲間の生息場所は環境との関連が密接であり、移動力が弱いので指標生物としての有効であると考えた。すなわち、どのような種類が出てくるかによって、その自然のようすを知る目安にならないかということである。

 ワラジムシの仲間は甲殻類で本来は海産の仲間から陸上に進化してきたもので、環境により出現するの顔ぶれが変化するはずと考え,調査を行った。特に富山県の等脚類は、今までに14種類が報告されているが、海岸から立山までの3000m標高差がある。

 県内では14種類が知られている。海岸にはフナムシが目に付く。砂や石の隙間を良く見ると三ミリ足らずの赤や紫色のハマワラジムシやヒイロワラジムシ、砂の中には色とりどりのハマダンゴムシなど多くの種類が見られた。これらは全て空気呼吸が苦手な原始的な仲間で,湿り気を必要とする。また、浜黒崎などの松林などにはワラジムシが特に多いことも知った。

 平野部を良く調べると、人が住んでいるところにはワラジムシやオカダンゴムシがすむ。都市のコンクリートで固められた部分や、住宅地、農村、山村でさえ人のヒトの営為の及ぶところにはオカダンゴムシとワラジムシがみられ、ときにはホソワラジムシなどもみられたが、これらは全てヨーロッパに起源をもつ外来種である。

 一歩、森に入ると、とたんに顔ぶれが変わり、ヒメフナムシ、フイリワラジムシ、コシビロダンゴムシなどが出てくる。なかでもヒメフナムシは自然林や湿潤な林にすみ、標高が1000m以上では等脚目ではヒメフナムシだけしかみられなくなること、そして2000mを越すと全く等脚類はいなくなることも立山で確認した。

 このように、富山県のあちこちを調べてみて平野部から高山にかけて、調べた所、人の多くすむ北の平野部には外来種、南の山地帯には在来の種類が多いことがわかった。そのことをかつての北日本新聞社のN記者に話したところ、それでは「ワラジムシの南北戦争ですね」と言われ,早速記事になった。(布村昇 2000年6月27日掲載)




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