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とやまと自然 第20巻 春の号(1997年)
超新星の発見

青木昌勝

◆はじめに
 平成8年春より、自宅(富山市月岡町)の天文台にて超新星の捜索を開始したところ幸運にも7月、8月、12月、平成9年2月に計5つの超新星を発見することができました。この発見により超新星の第一線での研究に少しでも役立てられたことはアマチュア天文家として無上の喜びと感じています。
 超新星とは何か、天文を始めたきっかけ、超新星の発見などについて少し書かせていただくことになりました。

◆超新星とは
 超新星と聞くとほとんどの人は、新しく生まれた星と思っているようですが、実はその逆で、年をとり、死を迎え最後に大爆発を起こす現象を言います。宇宙には無数の銀河が存在し、それぞれの銀河に数十年〜数百年に1回の割合でこの超新星爆発が起こっています。(私たちの住んでいるこの地球が属している銀河系は過去400年程超新星が出ていません。)
 大爆発を起こすと今まで見えなかった所にあたかも新しい星が誕生したかの様に見えるので超新星と呼ばれています。しかし、星の寿命が尽き、最後の大爆発によって死んで行きますが、その大爆発により、また新しい星が誕生すると言われていることから、死の現象ではありますが新しい星の誕生の第一歩でもあると言えるでしょう。
 この地球や私たち人類も過去の超新星爆発により、その残骸が長い年月をかけ、徐々に新しい星へと姿を変えて行き、現在の太陽系、地球、人類が誕生したのです。
 しかし、星の死により誕生した地球が50億年後に星の死により滅びます。それは、太陽の寿命により、超新星爆発はしないものの、大きく膨れ、地球をのみこんでしまうと考えられているからです。この地球は永遠ではなく有限なのです。

◆天文を始めたきっかけ
写真1.反射望遠鏡
 そもそも天文に興味をもったのは18年程前、ある友人に1枚の写真を見せてもらいました。その写真には無数の星と色鮮やかな星雲が写っていたのです。「え、素人にもこんな宇宙の写真が撮れるのか」と、驚きとある種の感動みたいなものが伝わってきました。それ以来、星にとりつかれ、望遠鏡を積んでは空気の澄んだ所に出かけ天体の写真を撮り続けていました。天体写真と言っても色々な分野があり、私は主に星雲と呼ばれる天体の撮影です。望遠鏡を使って見ますと、色はほとんど見ることができず、形もはっきりせず、まさに「淡い雲」と言った表現がピッタリの天体です。その淡い雲を望遠鏡にカメラを取り付けて長時間(数分〜数十分)かけて撮影しますと鮮やかな色とはっきりとした形が写し出されます。写真でしか見ることのできないすばらしい姿です。
 6年程前、新築した際、屋上に天体ドームを取り付け、口径43cmの反射望遠鏡を設置しました(写真1)。この場所ですと星雲の写真を撮っても街灯りにより淡い部分まで写らないことは判っていたのですが、自宅で気軽に観望できるのが魅力で、星を見て楽しむことを目的に設置したのです。


◆超新星の捜索と発見
 数年ほど前から、写真用フィルムの代わりに冷却CCDと言うものがアマチュアにも普及してきました。これは、今普及しているデジタルカメラの様なもので、天体や医療用に作られた、光を長時間蓄積することができる超高感度CCDカメラです。これを使いますとわずかな光の強さの違いを映像として表示してくれますので多少街灯りがあっても暗い星まで写すことができます。私の天文台では条件が良ければ30秒間でおよそ18.5等星まで写すことができます。また、最近ではコンピューターの発達により目的の天体を正確に望遠鏡の視野内に捉えてくれる制御装置も普及し、見たい天体を自動で導入することができるようになりました。これらの観測機器があれば「新しい天体の発見もできるのでは」と考えたのです。新しい天体とは、彗星、小惑星、新星、超新星などがありますが、この中で、私が特に関心を持ったのは超新星です。それは、この太陽系が生成され、私たち人類が誕生した源でもあるからです。超新星の研究は今から10年前にマゼラン星雲で発見され肉眼等級にまでなった超新星の発見を機に盛んに研究されるようになりました。
 自分の発見した超新星の報告により、研究者の方々がそれを調べ、少しずつ宇宙の新たな事実が判ってくる。アマチュア天文家にとって、これほど嬉しいことはありません。少しでもこの広大な宇宙の謎を解く上での研究の役に立てばと思い、私は超新星の発見を目指したのです。

 広い宇宙に無数とも言える程の銀河が存在します。そのなかのどの銀河にいつ超新星が出るのか誰にも判りません。しかし、それらの銀河を全て捜索することは我々アマチュアのできる事ではありませんので、比較的明るくて、大きな銀河に的をしぼり捜索することになります。私は、この富山での晴天率、捜索にあてれる時間、一晩で捜索できる銀河の数、使用する望遠鏡の性能などから、約2000程の銀河を調べることにしました。
 超新星はいつ出るか判らないため同じ銀河を定期的に調べなくてはいけません。その期間を1ヶ月と決め、その季節に見える銀河を30日毎に撮影し超新星が出現していないか調べることにしました。
 超新星の研究観測は、爆発した直後からその光の波長を詳しく観測するもので、星の進化や爆発のメカニズムを解明する上で大変重要なものです。超新星爆発はおよそ2〜3週間程で最大光度に達し、その後徐々に暗くなり数ヶ月程で見えなくなってしまいます。いつどこに出現するか分からない超新星ですが、最大光度前での早期発見(理想は爆発直後)が望まれています。

 機器の調整を終えた平成8年2月下旬からいよいよ超新星捜索の開始となりました。超新星の発見方法は、過去のその銀河の画像と現在の画像とを見比べて新しい星が写っていないか調べるので、過去に撮った画像が必ず必要なのです。最初はもちろん超新星捜索のための自分で撮った比較画像はありませんから今後、比較するための画像を撮るしかありません。
 少し比較画像がたまってきた4月のある日、からす座にある銀河を撮影しコンピューター画面にその画像が写し出された瞬間、「あっ」・・・・・。そうです、3月に撮った画像と比較したところ、新しい星が写っていたのです。初めての出来事であり、どうすればいいのか分からず、取りあえずこの新しい星が超新星なのかどうか確認してもらうため、活発に超新星捜索をしておられる八ヶ岳南麓天文台の串田麗樹さんに連絡を取ったのです。すると「その超新星は10日程前、海外で既に発見されていますね」との事でした。残念、もう少し早くこの銀河を調べていれば・・・。
 しかし、既に発見されていた超新星ではありましたが、独立で見つけたのですから自分が行っている捜索方法に間違いはなかったと言う自信や、発見に対する感触が得られ、また教訓としての意味から、捜索からわずか1月半で体験した、この悔しさと後悔がそれからの捜索において随分役だったのではないかと思います。この一件がなければ、4つもの超新星の発見はなかったことでしょう。
それまで1ヶ月毎と決めていた捜索方法を10日毎に調べるように変えました。当然晴れないと星は見えませんから必ず10日毎にとは行かないもののなるべく間隔を空けないようにと心がけ撮影するようにしたのです。

 それから3ヶ月が過ぎ、例年より早めに梅雨が明け、安定した天候が続いていた7月28日、いつものように捜索をし、「今夜も超新星は出ていなかったか」と、そろそろ終了しようと思い始めた午前3時半頃、南東の低空のエリダヌス座にあるNGC1084と言う銀河を望遠鏡でとらえ、撮影した画像がコンピューターに転送され画面に写し出されました。その銀河は、比較的明るい銀河のようですが、高度が低く、空の透明度があまり良くない事もあり、さほど明るくは写らなかったのですが、銀河の中心から少し北に明るい恒星像が写っていたのです。その銀河は、初めて撮る銀河で、過去に撮影した比較画像がありませんでしたので、手元にある銀河の写真集を調べてみましたが、そのあたりに銀河の濃い部分がありその写真では判断がつきませんでした。しかし、銀河の濃い部分にしては非常に明るく、はっきりとした恒星像に写っていることから超新星の可能性が高いのではないかと思い、八ヶ岳南麓天文台に連絡することにしたのです。
 そこにはこの銀河の過去に撮った画像が保存されていましたのでそれを見ていただいたところ、その場所には星は写っていないと言うことで、また、現在のところその銀河に超新星が発見されたとのIAU(国際天文学連合 本部パリ)からの発表もないと言うのです。これはもしかして超新星であって、自分がその第一発見者ではないかと直感的に思いました。しかし、確かなことはその光の波長を詳しく調べないことには超新星とは断定できないのです。その確認はIAUで行われます。取りあえずその星の精密な位置、明るさ等を測り、規定の書式で一刻も早くIAUに報告しなくてはいけません。興奮しながらも慎重に測定し発見から2時間程経過した午前5時半頃報告を終えたのです。
報告を済ませれば後はその結果を待つだけとなりますが、超新星だった場合、数日の内には正式に公表され、その情報は全世界の研究機関や天文台に伝わります。その数日間の時間は発見者にとって数ヶ月のように感じられるもので、試験の後の合格発表を待つ心境のようなものです。自信はあるものの発表されるまでは安心できないと言ったところでしょうか。そして、発見報告から3日後の7月31日午前7時頃、八ヶ岳南麓天文台から1枚のFAXが入りました。内容はIAUから会報が出て、超新星の発見が公開されたとのことでした。「やったー。バンザーイ」飛び起きて思わず叫びました。
 この発見は、自分だけで発見したのではなく、妻や家族全員での発見と私は思っています。仕事から帰り、晴れていればすぐ観測を始め、明け方まで続け、仮眠をとりまた仕事に出かける。そんな超新星捜索を優先した生活が続いたのです。家族の理解があったからこそこの発見につながったものであり、自分以上に家族が喜んでくれたことについて本当に天文を続けてきて良かった、超新星捜索をして良かったと今は感じている次第です。

 新天体の発見は、2度続くとよく言われています。そんなことは自分にはあてはまらないだろうと思っていたのですが、1つ目の発見から3週間後の8月17日乙女座にあるNGC5584と言う銀河に出現した超新星を発見し、更に12月15から16日かけての一晩に2つもの超新星を発見することができました。全世界で年間およそ数十個程発見される超新星ですが、自分がこれほどに発見できるとは想像もしなかったことです。
 最近はプロの観測者により、非常に暗い超新星が数多く発見されるようになりました。その数は年々増える傾向にあり、やがて我々アマチュアには発見のチャンスがなくなることになるかもしれません。それまでは今の超新星捜索を続け、早期に発見し、その研究に役立てたいと考えています。

◆おわりに
 こうして天文を続けてきて今思うことは、自分がこれほどに星にとりつかれたのはなぜだろう。自分にとって星とは・・・・・・。
 夜空を見上げ、無数の星に自分の体が触れ、この小さな砂粒の星「地球」の存在を感じる。星が見えることの不思議さ、たくさんの星があることの不思議さ、自分がいることの不思議さを思う。なぜか涙がでてくる。やはり、人間は、宇宙からの贈り物だろう・・・・。うまく言い表せないが、そんな気持ちになってくる。
 星を見るには必ずしも望遠鏡はいりません。ただ、星を見たいと言う気持ちがあればいいのです。
 宇宙は自分が生まれてきたふるさとです。きれいな星空を見ていると何か感じるものがあるはずです。1ヶ月、いや半年に1回でいいのです。星がきれいに見える場所に出かけ、じっくりと星と話し合ってみてはいかがですか。きっと何かが聞こえてきます。

(富山市月岡町在住 あおき まさかつ)
第20巻 春の号 目次

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最終更新 2008-03-25
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