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とやまと自然 第20巻 春の号(1997年)
アメリカ・カナダ西部の科学館とボランティア

朴木英治

1996年1月10日、正月気分もそこそこに成田空港から全国科学博物館協会主催の海外科学博物館視察ツアーに出発しました。目的地はアメリカとカナダの太平洋側の6つの科学館で、それらの館に公式訪問し、展示視察の他、館の職員と意見交換を行いました。
図1.エクスプロラトリウムの展示室
視察した全ての科学館が民間の財団が経営するものでした(日本と違って州や市が博物館を作る例が少ない)。どれもたいへん規模の大きな科学館ばかりで、富山市科学文化センターと比べると展示室の規模は数倍から十数倍、そこで働く職員数も二倍から十倍程度でした。年間の入館者数も30万人から100万人程度あり、職員の他に博物館を支える多くのボランティアの人たちが活躍していました。視察した博物館の活動やボランティアについて、日本では見られないと思われたことについて簡単に紹介します。


◆科学館の教育活動
 視察した多くの科学館では子供たちの教育に力を入れており、黄色のスクールバスに乗ってやってきた子供たちを10人程度の小さなグループに分けて展示室をまわり、解説者が様々な展示を使って教育をしていました。このグループ学習の方法でおもしろかった点は、子供たちが床に腰をおろして説明を聞いている場合が多かったことです。腰を下ろすと、説明者の手元が後の子どもにも良く見え、じくり話が聞けるようです。さらに子供たちの意識を高めるために服装にまで凝り、医学の内容では子供たちに医者の着る白衣を着せたり、化学のコーナーなどでは実験用の白衣を着せたりして指導している館もありました。これらのグループの指導にあたっているのはたいていボランティアの人たちでした。
図2.小学生の展示見学
 また、館によっては遠距離のために来ることの出来ない学校のために展示装置をバスに乗せ、解説員と共に学校を回るサービスをしているところもありました。これらのサービスは有料なので、サービスを受ける学校の父兄がバザーを開いてパイやクッキーを売り、その売上げと州の補助で必要な費用をまかなっているそうです。


◆ボランティアの活動
 視察した科学館のほとんどでボランティアが活躍しており、一つの館に登録されているボランティアの数は100〜200名程度でした。日本ではどちらかといえば、館がボランティアを募集していますが、視察した館では展示室などの一角にボランティアが運営する事務所があり、ボランティアの人たちがボランティアの募集を行っていました。ボランティアをしたい人はこの事務所で各人の都合の良い日を登録し、館の職員から仕事に関する研修を受けてから仕事をすることになります。また、日本の博物館でのボランティアの仕事は、展示の解説や資料の整理などが中心だと思いますが、アメリカの科学館ではボランティアの人たちがこれらの仕事以外にも、館の運営に関わる様々な仕事をしていました。例えば、展示の製作や(日本では展示の制作を専門の業者にまかせますが、アメリカでは館に製作専門のスタッフがいて自前で展示を作っている)入館料の徴収、さらには、庶務をしたり、寄付を募ってまわったりするなどで、館の職員とボランティアの人が全く同じ仕事をしている館もありました。無給のボランティアと有給の職員が全く同じ仕事をする事は日本ではあまり見られない例ですが、特にトラブルは無いとのことでした。
図3.高校生ボランティアの
実験指導
 さらに、アメリカのボランティア活動の中でおもしろい制度がありました。高校生が科学館でボランティアをすることによって理科の単位がもらえる「インターン制度」というものです。平日に視察した館で高校生らしい少年が展示室で実験指導をしているのを見て不思議に思ったのですが、この制度のことを聞いて納得しました。ボランティアをすることで、ボランティアをした本人にもお金で買えないメリットが与えられるという点でたいへんおもしろい制度だと思いました。ちなみに、科学館でのインターン制度を利用する高校生の多くは、将来、科学の世界を目指すそうです。


(当館化学担当学芸員 ほうのき ひではる)
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最終更新 2008-03-25
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