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今月の話題:No.279

シリカの魔法

 砂粒を手のひらにとって観察すると、さまざまな色をした粒がまじっています。その中には透明でキラリと光る粒があります。その多くは石英という鉱物です。この鉱物はシリカ(二酸化ケイ素= SiO2)という成分からできているのですが、このシリカは石英のほかにもいろいろな鉱物を作り出します。六角柱をした水晶、2月の誕生石で紫に輝くアメジスト(紫水晶)。この2つの鉱物はシリカのみでできている場合がほとんどです。そして10月の誕生石、七色に光るオパール。こちらはシリカと水(H2O)からできたものです。シリカはこのような鉱物をつくるほかにも、地層の中の地下水にまぎれこんで、不思議なものをつくることがあります。

オパールの貝化石

 皆さん貝の化石を見たことがありますか?少しにごった白色をしているもの、あるいは貝がらが溶けかかって、茶色がかったものがほとんどです。しかし透き通るような白色をした貝化石、虹色に輝く貝化石が存在するのです。このような美しい貝化石ができるのには、シリカが重要な役割を果たしています。貝がらをつくる成分は炭酸カルシウムです(理科の実験で二酸化炭素を発生させる時に、うすい塩酸の中に入れる石灰石と同じ成分です)。実はこの炭酸カルシウムとシリカは非常に相性が良いのです。地層の中に貝がらが閉じ込められると、地下水に含まれていたシリカが貝がらのまわりに集まり、炭酸カルシウムとシリカが置きかわってしまうことがあります。するとどうでしょう、貝がらはその形のままオパールに変身してしまうのです。こうして透き通るような白、あるいは七色に輝く貝の化石(シェル・オパール)ができるのです。

オーストラリア産のシェル・オパール
図1.オーストラリア産のシェル・オパール。実物は右下部分が七色に輝いている。約2cm。

月のおさがり

 地層の中から大きさ約10cm程のらせん状にクルクルと管を巻いた白く透き通る石が見つかることがあります。その昔、岐阜県の瑞浪地方ではこの美しい石は月から落ちてきたものと考えられ、お守りとして 大切にされました。実はこれも貝化石が姿を変えたものです。ビカリヤやビカリエラという巻貝の化石がありますが、月のおさがりはその殻の中に地下水に溶けていたシリカが沈殿し、固まったのです。その後、外側の貝がらは溶けてしまい、中に固まったシリカ(オパール)だけが化石として残ったというわけです。

月のおさがり
図2.月のおさがり。フォッサマグナミュージアム所蔵、約10cm。

珪化木

 シリカは貝化石だけでなく、木の化石も変身させてしまうことがあります。木が地層中にうまってまもなく、シリカを多く含む地下水にふれつづけると、木の細部にシリカが沈殿し、珪化木という化石になります。木の細かな模様まで残し、時には燃えるような赤い色を放ちます。

珪化木
図3.珪化木。吉本敬子氏所蔵、約20cm。

フンの化石

 貝や木だけではありません。動物のフンすらシリカは変身させてしまいます。フンが地層中にうまると、これまたシリカがフンに染みこみ、やわらかい動物のフンを固い化石に変えてしまいます。恐竜などの絶滅した動物のフンがこうして残ることがあり、絶滅した動物が何を食べていたのかを解明するのに、重要な手がかりになります。

フンの化石
図4.フンの化石。約5cm。

 シリカは貝の化石を光り輝くオパールに変え、木を変身させ、動物のフンをも固い化石にしてしまいます。シリカがどうしてこうした力(性質)をもつのか、未だに良く分かっていません。まさにシリカの魔法にかけられているようです。これらの不思議な化石は夏の特別展「水晶の世界」(7月17日〜9月16日)で紹介します。夏休みには、ぜひ科学文化センターに足を運んで、じっくり観察して、ナゾを解き明かしてください。■

文:田中 豊
発行:平成13年6月


富山市科学文化センター
作成 市川 2002-02-11
最終更新 市川 2002-02-11
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