クリのとげ
                                                 No.243

 みなさんご存知のように、クリの実は、イガとよばれる無数のとげがついた皮の中に入っています(図1)。このとげが手に刺さるとかなり痛いですね。

さて、このとげはどのようにしてできるのでしょうか。植物の実は、花が変化してできるものですから、花をよく観察すればその答えが分かるにちがいありません。



とげのもとは?

 6月、クリの木の枝には、細長くて黄色い穂のような花が何本もついています(図2)。これは「おばな」です。枝の先のほうについたおばなの穂をよく見ると、つけね近くにひときわ大きな花が一つか二つ、ついています(図2の○で囲った部分、図3)。これは「めばな」とその土台で、やがてイガイガの実になる部分です。ここをルーペで見ると、ヒゲのようなめしべを30本ほど出している部分(めばな)と、かわらを重ねたようになっている部分とがあります。かわらのような部分は「総ほう」、その1枚は「総ほう片」と呼ばれています。この総ほう片の形には、平たくて先のとがったものや数本のとげのようなものがちゃんとあるではありませんか。

7月になると(図4)、めばなと総ほうがついていた部分には緑色の小さなイガができていますから、イガのとげは総ほう片の小さなとげがのびたらしいことが分かります。この時、黄色い穂になって咲いていたおばなは、すでに枯れ落ちています。9月になると、皆さんのよく知っている茶色の「栗の実」ができあがります(図1)。


とげが増える

 イガのとげが総ほう片の小さなとげがのびてできたたらしいとが分かりましたが、まだ、総ほう片の枚数と、実になった時のとげの本数とが合いません。そこで、イガからとげを1本、注意深くはずしてみました(図5)。すると、とげの根元は1本でしたが、途中から何本にも枝分かれしていることが分かりました。1本の総ほう片が枝分かれしながらぐんぐん生長して、多くのとげをつくり出していたのです。

 イガの中の実が熟すころには、とげは茶色く枯れてかたくなり、いよいよ完全武装することになります。かたいとげは、動物に実を食べられにくくしているのだと考えられています。

 6月は、クリの花の季節。おばなからは独特のニオイが出ます。このニオイがきらいな人もいるかもしれません。クリの花のニオイがただよってきたら、一枝手にとって、「栗」の始まりを観察してみてはいかがでしょうか。

                                       太田道人(おおたみちひと)

                                          平成10年6月1日

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