動物裁判

 

 13世紀から18世紀にかけて、中世ヨーロッパでは、動物裁判という私たちには思いもよらない事柄が広く行われていた。動物裁判とは、人間に危害を加えた、また損害を与えた動物、ブタ、ウシ、ネズミやはてはミミズや昆虫まで、を人間の裁判とまったく同様に、国王や領主の裁判所や教会の裁判所で、手続きもそのままに裁判を行ったものである。弁護士さえつけた。量刑も罪により、死罪や破門のこともあれば無罪をかちとることもあった。これは、パロディとして行われたのではない。まったく大まじめに行われたのである。そこには、人間と動物すなわち自然を対等と見る、自然を人間に引きつけて見る精神がある。その基礎には、農業の発達によって、未知でおそるべきものであった自然の人間の征服の始まりがある。自然が、人間にとっておそるべきものであったものから人間の従属物へと変化する、その過渡期に現れた現象として理解されるのである。ひるがえって、現在は人間による自然の従属化が進みすぎたようである。今後は、動物による人間裁判が必要になってきたのだはなかろうか。

根来 尚


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