アリの変わり者
クロナガアリ
秋だけ見られるへんなアリ
「アリ」というと、夏の暑い時期、働きアリがせっせと活動し、家の中にまで入ってきて砂糖やお菓子に群がる様子が思い浮かびますね。
ところが、そろそろ秋風が吹き始め、多くの生き物が冬越しの準備に入るころにだけ見られるというかわったアリがいます。
それは、クロナガアリという名前の小さなアリで、秋になると働きアリが地面の中から顔を出し、短い期間地上で活動し、また地面の中に閉じ込もってしまうのです。
クロナガアリの働きアリは体長5mmくらい。名前のとおり黒色で、頭部と胸部には縦のしわがたくさんあります。胸部と腹部をつなぐ柄は2節あり、腹部は丸く光沢があります。クロナガ(黒く長い)などど名前がついていますが他のアリに比べて特に体が長いわけではありません。
よく目につく他のアリ
クロオオアリ、クロヤマアリ、トビイロケアリ、アミメアリ
食べ物もかわっている
おおくのアリは、アブラムシの出す甘い液体や落っことしてしまったアメ玉やお菓子などの甘いえさや、昆虫の死骸など動物質のえさに集まりますが、クロナガアリはそんな物は知らぬ顔で、スズメノカタビラやエノコログサなどイネ科の雑草の種子をえさとして集めます。
クロナガアリは、秋、雑草が種子を実らせる時期にのみ、働きアリが地上に現れ、一年分のえさとしてせっせと種子を巣中にため込む収穫アリなのです。一年分の米を秋に収穫する人間に似ていますね。雑草の種子を収穫し貯蔵するアリは、日本ではクロナガアリただ一種です。
巣もかわっている
また、このアリはたいへん深い巣を掘るのでも知られています。
ある人が掘ってみたところ、なんと4mから5mもの深さがあったそうです。こんなに深い巣を掘るアリは日本では他には知られていません。
地上の巣口からほぼまっすぐに主坑が下りて行きます。途中で主坑から部屋がいくつも分かれています。その部屋は種子を貯蔵する部屋、幼虫のいる部屋、女王のいる部屋などに分かれ、クロナガアリは、秋にため込んだ種子をえさとし、一年のほとんどをこの暗黒の深い巣の中ですごしているのです。
地中も深くなると、一年中温度や湿度があまり変化しません。他のアリがすっかり活動を止めじっと動かずにいる冬の間も、クロナガアリは深い巣の中で女王アリと雄アリとなる幼虫を育てます。この幼虫は春のはじめには羽化し、巣の中で春の結婚飛翔の日を待っています。4月から5月、一時的に巣が開かれ、女王アリと雄アリが結婚飛翔に飛び出しますが、またすぐに閉じられます。交尾をすませると雄アリは死に、女王アリは地面に潜り込み、巣を作り卵を産み幼虫を育てます。
アリを観察してみよう
このクロナガアリは、富山県でのアリの調査は進んでいないこともあって、まだ富山市呉羽山や高岡市内から知られているにすぎません。県内あちこちにいると思います。みなさんも頭の上のアカトンボだけでなく、足下のアリをながめて、種子を運ぶクロナガアリを探してみましょう。