ミノムシ

木の枝でぶらぶらと揺れているミノムシ。ミノガと呼ばれる蛾の幼虫が、蓑(みの)の中で冬眠中です。ミノムシには幾つかの種類が有りますが、最も大きくてよく目立つのがオオミノガです。ひとつオオミノガの蓑でもとっくり眺めながら、ミノムシの生活を考えてみましょう。

 

オオミノガの越冬

10月、秋も盛りのころ、十分大きくなり終令幼虫(もう1回皮を脱ぐと蛹になる大きな幼虫のこと)になったミノムシは、越冬の準備にかかります。

えさを食べるのを止め、葉をかじり取って口から吐く糸で蓑にかがりつけ、蓑を丈夫にします。そして手ごろな枝を選んで、糸を巻き付けそれに蓑を固定します。葉っぱをたくさんかがりつけた丈夫な厚い蓑は、雨や雪からミノムシを守ってくれます。丈夫な蓑は小鳥のくちばしでも切りさけないでしょう。しかし、シジュウカラがミノムシを嘴にくわえていることがあります。シジュウカラのような嘴の細い小鳥は、蓑の底に開いている細い口から嘴を差し込みミノムシを引っ張り出すのです。丈夫な蓑も完全ではありません。

冬の寒さは、ミノムシにとってはたいへん危険です。寒さは蓑でも防ぐことはできません。体が凍るような寒さに遭うと死んでしまいます。

 

蛹へ、そして羽化

 無事冬を越したミノムシは、サクラの花も終わる4月下旬から5月上旬に蛹になります。約1カ月の後、オオミノガの雄の蛹は、蓑の下の口から体を半分ほど外に出し、成虫が羽化してきます。雄のオオミノガは、口が退化しておりえさを取ることもなく、雌を探して飛び回ります。

 一方、雌の幼虫は同じ時期蛹になった後成虫になりますが、成虫の姿は雄とはまったく異なり、蛾の成虫らしくありません。小さな頭と小さな胸、体のほとんどを占める大きな腹部、腹部の中は卵でいっぱいです。そして、驚いたことにハネも足も無いのです。しかも、この蛾の成虫らしからぬオオミノガの雌は、蛹の殻の先端を押し空けるのみで、体は蓑の中の蛹の殻の中に入ったままです。雌は特有の匂いを出し、雄を誘います。雄はその匂いを頼りに、雌の入っている蓑に飛んできて交尾します。

産卵、孵化、幼虫

交尾後、雌はすぐに産卵を始めます。卵は蛹の殻の中に数千個も生みつけられます。2〜3週間すると幼虫が孵化してきます。それまでに雌は小さく干涸らびて死んでしまい、蓑から下に落ちてしまいます。

生まれたばかりの幼虫は、蓑の外に出て糸を長く延ばし垂れ下がり、風に揺られて、新しい枝や葉に移っていきます。

新しい枝や葉に移った幼虫は、枝や葉の表皮をかじり取り糸で綴り合わせて小さな蓑を作ります。木の葉を食べてどんどん大きくなってゆくミノムシは、かじり取った葉を糸で継ぎ足し、体に合わせて蓑も大きくしてゆきます。7回脱皮し充分大きくなるころには、秋風が吹き、ミノムシは冬越しの準備にかかります。無事に冬を越せるといいですね。

                       (根来 尚)

 


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