オトシブミ 

−ゆりかごを作る昆虫の不思議−

 

不思議な葉っぱ

 初夏、新緑の季節。野山に出かけるのに最良の季節です。

クリやコナラの木々のある山道を歩いていると、道の上に奇妙な木の葉が落ちているのに出合います。葉がくるくると円筒形に巻かれているのです。

 人がいたずらをしたのでしょうか。いいえ、人間の手ではこんなにうまくは巻けないでしょう。

 これは、オトシブミという甲虫の仲間が作ったものなのです。オトシブミのメスは、葉を巻き、中に卵を産みます。そしてその巻いた葉を切り落とします。オトシブミの巻いた葉を、揺らん(ゆりかご)と呼んでいます。卵や幼虫がくるまれているからでしょう。  

名前の由来

 ところで、オトシブミとはかわった名前ですね。どうしてこんな名前がついたのでしょうか。おとしぶみ(落文)、これは、直接言えないことを手紙に書いて、伝えたい人の近くの路上に落としておく文のことです。平安時代から鎌倉時代には行われていたようです。昔は巻紙に手紙を書きました。オトシブミの作る揺らんが巻紙の落文のようだというので、オトシブミという名前がつけられたのです。

ゆりかごの作り方

 初夏、5月の終わりから6月にかけて、冬眠から目覚めたオトシブミのメスは交尾をすませると、揺らん作りにとりかかります。クリやコナラの葉を選び、中心の葉脈を残して葉を噛み切り、葉脈にも傷を付けて葉をしおれさせます。葉脈の一部だけでしおれた葉がぶら下がるのです。オトシブミはしおれた葉の葉脈数カ所にも噛み傷を付け巻き上げやすくし、いちばん先から葉を巻き上げてゆきます。3巻きほどしたところで卵を産みつけます。そして噛み切ったところまで巻き上げ、最後にそこでぶら下がっていた葉脈を切り放し、揺らんを落とします。

 卵は5日ほどで孵化し、孵化した幼虫は、巻かれた葉を食べて成長し2週間ほどでサナギになります。そのあと5日ほどで成虫になり、揺らんをかじって孔を開け外に出てきます。

 オトシブミのメスの揺らん作りを見たことのある人は、だれもが、小さな昆虫が見せる本能の不思議に心をうたれることでしょう。あなたも近くの雑木林に行ってオトシブミの揺らん作りを観察してみませんか。

 

オトシブミの仲間たち

 オトシブミの仲間には、オトシブミの他にもいろんな種類がいて、それぞれに巻く葉がだいたい決まっています。しかも葉の巻き方もおおよそ決まっていますので、葉の種類と巻き方で、どのオトシブミが作ったかだいたい当てることができます。また、揺らんを作って葉から切って落としてしまわない種類も多く、そうした種類の揺らんは風にゆらゆらと揺られて、ほんとにゆりかごのようです。

 (根来 尚)

 


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