雪の上のカワゲラ 根来 尚

 北陸の地にやってきたのは、もう30年以上も前のことである。 関西で生まれ育った私には、降り積もったまま融けない雪自体が珍しく、また雪中での生活はなんと大変なことかと感じていた。一方、雪を楽しむ方法も、身につけようと考え、スキーを始めた。

 2月も終わりの頃、初めてのスキー経験に疲れはてて、医王山山麓の林道を、のこのことスキー板を担いで歩いていた。当時は、そのスキー場にはリフトも無く、また、バスの終点から30分近く歩かなければならなかった。おかげで、スキー場はたいへん空いており、全くの初心者が練習するには好都合だった。 そしてもう一つ、疲れて下ばかり見て歩いていたのが幸いして、林道脇の雪の上に1cmほどの真っ黒な虫、セッケイカワゲラを見つけたのだった。

 チョロチョロ雪上をはい回る虫を見て、「セッケイカワゲラ」と直感したのは、つれづれに昆虫図鑑を眺めていたおかげだろう。しかし、高山の雪渓に棲むという虫が、たかだか標高400mほどの所にいるのが不思議に思われた。標高 2500m、立山の雪渓上で、「セッケイカワゲラ」に遭え、また、丘陵地から高山まで広く生息することを知ったのはそれから20年もたってからだった。

追伸:初夏から夏に立山の雪渓で見られる「セッケイカワゲラ」と2,3月に丘陵地や山地で見られる「セッケイカワゲラ」は、同じ仲間ですが種類が違い、立山の雪渓で見られるのはセッケイカワゲラモドキという種類で、丘陵地や山地のはセッケイカワゲラという種類です。どちらもよく似ていて雪上で成虫がみられ、1cmほどの細長い真っ黒な虫でハネは退化しています。幼虫は渓流中に住んでいます。


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