自然科学博物館への招待−学芸員と共に自然を識ろう−

 

                        根来 尚(富山市科学文化センター)

 

自然の不思議を見つけたら

皆さんが立山に登ったとしましょう。朝日に残雪の輝くカール、子連れのライチョウが遊び花々の咲き乱れるお花畑、アメンボの浮かぶ小さな水たまり、硫黄の吹き出す地獄を見ることでしょう。午後、風が雲を呼び雲が雨を呼びます。夕方、雨もあがり夕日であたりは赤く染まり、やがて星々がまたたき始めます。

 皆さんが海水浴へ行ったとしましょう。青い海、青い空、白い入道雲、白い波の寄せる砂浜や岩礁、海藻にまつわりつく小魚や小エビ、岩の上をはい回る貝を見るでしょう。

 あれを見これを見、あれを聞きこれを聞き、感動とともにいくつもの疑問が湧き出てくることでしょう。そのさまざまな疑問をどこで解決しますか? 事典を開く? だれかに聞く? いやいや、ここはひとつ博物館へ。

 天上界から月下の地上界まで、天文・気象・物理・化学・岩石・化石・植物・動物・・・・自然現象にかかわる事柄全般は、自然科学を対象とする博物館の守備範囲です。富山県内の自然科学系の博物館は、おそらく皆さんが考えているよりも種々たくさんあります。

 

質問は学芸員に

 これらの博物館では自然に関する展示がなされているばかりではありません。もちろんさまざまな興味深い展示がありますが、それを見るだけの利用では上手な博物館の利用とは言えません。博物館の開催する各種の教室や行事への参加も、楽しい有効な博物館の利用の仕方です。しかし、もっと上手に利用するには、そこに“学芸員”と呼ばれる専門職員がいることを知ることが大切です。彼ら彼女らは資料を集め研究し、展示を考え作り、多彩な普及行事を催して自然の不思議を体験させてくれたりします。そして、各種の資料や研究を基に、いろいろな疑問に答えてくれます。

 さまざまな疑問を、博物館の学芸員にぶつけてみましょう。多くの場合、直ちに的確な答えが返ってくることでしょう。すぐには答えが得られない場合でも、どのようにすれば答えが見つかるかのアドバイスを受けられるでしょう。

博物館を利用するということは、“学芸員を利用する”ということでもあります。どのような疑問に答えてくれる学芸員がどこにいるかを知るには、博物館の性格を知らなくてはなりません。各博物館の特徴と博物館にいる学芸員を知って十分活用しましょう。

 

さまざまな博物館

 富山県内で自然科学全般をカバーする博物館は、今のところ「富山市科学文化センター」が唯一の館で、付属施設として「富山市天文台」があります。

 特定の地域・分野を守備範囲とする特色ある博物館として、立山地域では「立山自然保護センター」「立山博物館」「立山カルデラ砂防博物館」が在ります。さすがに富山を代表する山岳、立山ですね。立山という地域をテーマとした博物館が3つもあるのです。

 丘陵地の自然を紹介する「自然博物園ねいの里」、魚津の奇観・埋没林や蜃気楼をテーマとした「魚津埋没林博物館」、ホタルイカから海を見ようとする「ホタルイカミュージアム」、プラネタリウムや科学工作教室のある「黒部市吉田科学館」、そして、計画が進展中の日本海をまるごと相手にしようという「日本海ミュージアム」。これらの館はそれぞれに特定のテーマを深く追究しようとする博物館です。

 その他、歴史・民俗・自然など総合的に地域を追究しようという「氷見市立博物館」「滑川市博物館」「上市町山岳博物館」などの総合的博物館でも、地域の自然が一つのテーマとして扱われています。

 ユニークな博物館としては、野外の自然そのものを博物館と見立て、実際に野外の自然を観察してもらおうする「朝日町宮崎自然博物館」。また、「自然博物園ねいの里」にも同様に野外の自然観察コースがあります。

 

自然を識るためのお手伝い

 皆さんが博物館を利用できるのは、展示を見、行事に参加し、そして疑問を解決する時だけではありません。疑問は認識への扉です。もっと深く自然を識りたい。自然を識る手がかりをつかみたい。そんなときにも博物館が、学芸員が、導き手となりお手伝いできるでしょう。

もちろん、本当の自然は博物館の外にあります。自ら、自然のなかで自然に問いかけ、自然から答えを得る。これが自然を認識する本当の道でしょう。しかし、一人の人間がなし得るところはたいへん少ないものです。博物館には時間的・場所的な資料と情報の蓄積があります。それを利用しない手はありません。それらは皆さんにとって、直接的な自然体験ではなく二次的な、また一定のフィルターのかかったものではありますが、歴史的・地域的に変化する自然の一端に触れることができます。

それやこれやが、皆さんの自然認識の一ステップになれば、博物館と学芸員が存在する意味があったというべきでしょう。


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