スズメバチはどんなハチ?

          根来 尚

 

 

 夏の終わりから秋の終わりにかけて、市民の方から、スズメバチについての質問がよくよせられます。

 「大きなハチの巣があるのだが、何の巣だろうか?取って飾っておきたいが、どうやって取ればよいか?たくさんのハチが出入りして恐いので、自分達で取ってしまえないか?」などといった質問がほとんどです。

 お話を聞いていくと、ほとんどの方は、冬になっても巣の中にハチがいると思っていらっしゃるようで、「冬になると、スズメバチは巣の中には1頭もいなくなりますよ。」と言うと驚かれます。 そこで、スズメバチの一年の生活のお話をすることにしましょう。

 

いろいろいるスズメバチ

 「スズメバチといわれるものも、大きいのや小さいのがいるようですが、1種類なんですか?」

 スズメバチという1種類の蜂がいると思われているようですが、実は1種類の蜂のことではなく、幾種類かのハチの総称です。富山県では13種が知られています。(日本全国からは16種が知られています。)よく目につくもの数種類ご紹介しておきましょう。

 

 オオスズメバチ:世界最大のスズメバチ。攻撃性も強く、野外で襲われる事故の多くは、このハチか、次に記すキイロスズメバチによると思われます。地中や樹洞に巣を作ります。

 蜂の大きさ:女王蜂40-45mm, 働き蜂25-35mm, 雄蜂25-40mm.

働き蜂の数:200-300,大きい巣では500頭にも.

 新女王蜂の羽化数:100-300頭.

巣の部屋の数:3000-5000.

 巣の大きさ:直径30-70cm.

主な餌:コガネムシやセミ等の大型の昆虫、ま     た他種のスズメバチやミツバチ。

 

 キイロスズメバチ:軒下や屋根裏などに非常に大きな巣を作ります。当然、巣にいるハチの数も多く、問い合わせの多くもこのハチです。

 蜂の大きさ:女王蜂25-30mm, 働き蜂18-25mm, 雄蜂26-28mm.

働き蜂の数:400-1,400頭.

 新女王蜂の羽化数:200-800頭.

 巣の部屋の数:4000-7000.

 巣の大きさ:直径40-80cm.

主な餌:ハエ、アブ、トンボ、セミ等各種の昆     虫やクモ類。

 

 コガタスズメバチ:低木の枝に巣を作ります。巣はあまり大きくならず、ハチの数も少なく、攻撃性は比較的小さいものです。

 蜂の大きさ:女王蜂25-30mm, 働き蜂22-26mm, 雄蜂23-26mm.

働き蜂の数:50-100頭.

 新女王蜂の羽化数:50-200頭.

 巣の部屋の数:300-800.

 巣の大きさ:直径20-30cm.

主な餌:ハエ、アブ、ハチ類、アオムシ等各種     の昆虫類やクモ類。

 クロスズメバチ:上記の3種の働き蜂は、茶色っぽく大きい体をしていますが、この種は黒くより小さい体をしています。地中に巣を作ります。

クロスズメバチ類は一般的に、攻撃性は弱く、危険性は少ないものです。

 長野県や岐阜県でハチノコの缶詰などとして食用にされています。

 蜂の大きさ:女王蜂15-16mm, 働き蜂10-12mm, 雄蜂12-14mm.

働き蜂の数:800-1,500頭.

 新女王蜂の羽化数:1,000-3,000頭.

 巣の部屋の数:8000-12000.

 巣の大きさ:直径20-30cm.

 主な餌:各種の小型昆虫類やクモ類、カエル、     ヘビ、サカナ等の死肉にも来る。

 

その他の富山県のスズメバチ類

ヒメスズメバチ:オオスズメバチに次いで大型。      平地から丘陵地。巣は小さい。

モンスズメバチ:キイロスズメバチより少し大      きい。丘陵地から山地。攻撃性は大      きい。少ない。

チャイロスズメバチ:キイロスズメバチと同じ      くらいの大きさ。キイロスズメバチ      に寄生。山地。攻撃性は強い。まれ。

キオビクロスズメバチ:クロスズメバチより少      し大きい。山地。

 シダクロスズメバチ:クロスズメバチにそっく      り。平地から山地。

ツヤクロスズメバチ:クロスズメバチと同じく      らいの大きさ。山地。

シロオビホオナガスズメバチ:クロスズメバチ      より少し大きい。山地

ヤドリホオナガスズメバチ:シロオビホオナガ      スズメバチに寄生するのではと考え      られている。山地。まれ。

キオビホオナガスズメバチ:クロスズメバチよ      り少し大きい。山地。

 

紙で巣を作るスズメバチ

 「茶色の縞模様の巣は何でできているんですか?」 これは必ず聞かれる質問です。スズメバチの巣は茶色や灰色の縞模様になっていて、これが目立った特徴になっていますね。巣は蜂が枯れ木などからかじり取ってきた木の繊維に唾液を混ぜたものを薄く広げ作られます。木の繊維から作られる紙と同じですね。多くの蜂が色の違ういろんな木から集めて来て、各々巣に追加していくので、あんな縞模様ができるのです。

 

蜜は貯めないスズメバチ

「あの大きな巣の中にも蜜がありますか?」ともよく聞かれます。残念ながら、スズメバチはミツバチとは違い、蜜や花粉を集めたり貯めたりはしません。樹液や花蜜、ときにはジュースなどにもやってきますが、これらは成虫の活動エネルギー源です。幼虫には、他の昆虫を捕まえそれを肉団子にしたものをあたえます。取ってきた肉団子を蓄えることもありません。また、成虫は、幼虫が口から出す唾液腺からの分泌液を主要な食糧としています。

 

せっかく作った巣も1年

「来年もまた同じ巣に戻ってくるのですか。」 たいへん気になることですね。冬には蜂がいないのはよいけれど、もし春になって戻ってくるようなら、冬のうちに巣を取ってしまわなければなりません。しかし、蜂がせっかく半年もかけて作った大きな巣も二度と使われることはありません。

 春になると、女王蜂1頭で、また最初から巣を作りはじめます。ただ、一度巣をかけたということは、その場所が巣をかけるのによい場所だということなので、すぐ近くにまた巣をかける可能性は大きいでしょう。山間のお寺などの軒下では二つも三つも巣がならんでいることがあります。

 

女王蜂だけが冬を越すスズメバチ

「冬、巣の中にいないのなら、どこへいくのですか?」秋も終わりごろになると、来春女王蜂になる雌蜂と雄蜂は交尾し、雌蜂は朽ち木などの中の小さなうろで、1頭ずつ別々に(時には2頭いることもありますが)冬を越します。雄蜂や働き蜂は全部冬の始めごろには死んでしまいます。

 春になると、無事冬を越した雌蜂は、1頭で巣を作り始めます。巣を作り、卵を産み、えさを集め幼虫を育てます。新しい成虫が羽化すると、その新しい成虫は働き蜂となって、巣材を集め巣を大きくし、えさを集め幼虫の世話をします。そうなると、最初に巣作りを始めた雌蜂は産卵に専念する女王蜂となるわけです。

働き蜂が多くなるにしたがって、ますます巣は大きくなり、ますます蜂の数も多くなります。働き蜂は3週間くらいで死んでいきますが、次々と羽化してくるので、働き蜂が減ってしまうということはありません。秋になると、働き蜂は生まれなくなり、雄蜂と来年女王蜂になる大型の雌蜂が生まれます。

オス蜂とメス蜂は巣外で交尾し、雌蜂は枯れ木の材中などで冬を越します。雄蜂や働き蜂は全部冬の始めごろには死んでしまい、こうして1年がめぐるのです。

 

市街地で見られるスズメバチ

「最近、富山市内でもスズメバチが増えているような気がするのですが?」

 残念ながらハチが増えているかどうか、はっきりとは判りません。おそらく、全体的には減っているだろうと思います。というのは、市街地がだんだんと広がり、また、屋敷林が減ってきているからです。巣を作る場所も餌となる虫も減ったはずです。ハチも当然減るでしょう。

 しかし、富山市役所の市民相談課の話ですとスズメバチの相談が増えているそうです。相談が増えたからハチが増えたとはかぎりません。以前はいても気にしなかったか、自分で処理していたのが、最近ではいる事に気がつくとすぐに電話というようになってきたという可能性もあるからです。それと、以前はあまり気付かれない所に巣をかけていたのが、よい場所が少なくなり、目だつ所にでも巣をかけざるを得ないようになってきたということも考えられます。1994年は全国的に気温が高く雨も少なかったので、営巣が順調に行われ、全国的にもスズメバチは多かったようです。

富山市内で相談の多いスズメバチは、圧倒的にキイロスズメバチが多いようで、それにコガタスズメバチが少しあるようです。地中に営巣するオオスズメバチやクロスズメバチは丘陵地や山地に多く、特に市街地では営巣はできないのでしょう。

キイロスズメバチとコガタスズメバチは、市街地でも営巣が可能です。キイロスズメバチは営巣場所の選択が、土中、樹枝、樹洞、軒下、屋根裏、壁間等と柔軟で、また、餌もなんでもと言ってよいくらい広い範囲です。コガタスズメバチの営巣場所は樹枝で、公園の樹木や庭の植え込み、生け垣等に巣をかけ、餌もキイロスズメバチ同様広い範囲です。また、コガタスズメバチは個体数も少ないので、少なくてすむと思います。これらのことがこの2種の市街地での生息を可能にしているのでしょう。

 キイロスズメバチの相談が多いのは、やはり巣が大きくよく目立ち、蜂の数も多いからなのでしょう。

 コガタスズメバチは、巣もあまり大きくならず、蜂の数もそれほど多くならないので、あまり問題にされないのかもしれません。

 

スズメバチの害と対策

 「スズメバチに刺されると死ぬこともあると聞きましたが?」

スズメバチ類の害は、オオスズメバチによるミツバチの被害を除けば、一般的には、刺されることによる害につきると思います。

 もちろん1匹でも、刺されればたいへん痛いですし腫れ上がります。まれに、蜂毒にアレルギー体質の方はショック死する事もあります。多くの蜂に刺されればアレルギー体質でない方も死ぬ危険性があります。また、何回も刺されると、だんだんと症状がひどくなってくることもあります。

 もし刺された場合は、たいしたことはなくても念のため病院へ行って見てもらった方がよいでしょう。ショックで死亡する場合は1時間以内ということですので、ひどい腫れや広範囲の発疹、発熱など全身症状が出た場合はできるだけ早く行くべきです。

なお、蜂の毒は単なる酸ではなく、複雑な物質の混合物であり、アンモニアを塗るのはまったく有害無益です。

しかし、蜂をむやみに恐がる必要はありません。 蜂はむやみやたらに刺すものではありません。蜂が刺すのは、主に巣の防衛のためです。それで、蜂に刺されないための対策の第一は巣の存在の確認です。”そこに巣がある。”これを知っているだけでほとんど刺されることは無くなるはずです。 蜂たちは、多くのえさを必要とし、それが害虫の駆除にも役立っているはずです。巣の近辺に近づく可能性のある人が、その巣の存在を知っていれば、わざわざ危険をおかしてまで巣を取り除く必要は無いと思います。また、よく注意をしていれば、巣が小さなうちに気がつき、危険も少なく取ってしまえます。

 大きくなった巣をどうしても取り除く必要のある場合は、素人が手を出すのはたいへん危険です。少々お金はかかりますが、害虫駆除専門の会社にでも頼むのがよいと思います。

 


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