ジョロウグモ

 夏休みも終わり、そろそろ秋かなと思われる頃山道を歩くと、体の長さが2〜3cm、足も入れると6cmもあるたいへん大きなクモが、これまた50cmを越える大きな網を張っています。狭い山道ですと、道を横断して張っているので、うっかりしていると顔に網がかかったりします。円筒形の腹部が黄色で灰青色の横縞模様があり、腹側の赤色がよく目立つこのクモは、

ジョロウグモの雌です。上ろう(位の高い女官のこと)から付けられた名前

で、雅なもしくは艶やかな様子からそう呼ばれたのでしょう。

秋にみられる代表的なクモ、ジョウロウグモについてご紹介しましょう。

 

網とえさ

 たいへん大きな網ですね。よく見ると、三重になっています。中央の網が最も大きくきちんと網状になっています。その前後にこぶりの、荒い不規則な網があります。中央の網はたいへん目が細かく、数本おきに横糸の間隔が少し開き、まるで五線譜のように見えませんか。横糸は中央から下に多く、上にはほとんどありません。全体として馬蹄型に見えます。このような網を張るのは、ジョロウグモしかいません。縦糸には粘りけがありませんが、横糸に粘りけがあり虫が絡みつくようになっています。

 網を張るクモは、網にかかった虫しか食べません。蝶や蛾、蝿などが多く、トンボや蝉、時にはキリギリスの仲間のような大きな虫がかかっていることもあります。

交尾・産卵

 網をよく見ると小さなクモが1頭もしくは数頭居ることがあります。これはジョウロウグモの雄です。雌と比べるとうんと小さく、体の長さは1cm足らずです。雄は大きな雌との交接の機会をうかがっているのです。ジョウロウグモの雄は成体になると、雌の巣に同居するようになりますが、ほとんどえさは食べないようです。雄は、雌が最後の脱皮をして成体になる時を見計らって、交接をし精液を雌に渡します。雌は10月半ばになると網から離れ、木の葉や幹に楕円形の白い卵嚢を付けます。その中には500個ほどもの卵が産みつけられます。卵嚢が目立たないように、雌は木の皮や枯れ葉を張り付けてカモフラージュします。

誕生から大人へ

卵で越冬したジョウロウグモは、5月半ば子グモが誕生し、卵嚢から出てきます。子グモ達は、数日間は一団となっていますが、やがて木の枝の上に登ってゆき、おしりから糸を出しその糸を風に流し、枝先から糸に乗って旅立って行きます。あちこちに分散した子グモは、木の枝や葉の間に5cmほどの小さな丸い網を張り生活を始めます。6月、7月ごろはまだ体も網も大きくないので目立ちませんが、体が大きくなるにつれ網も大きくなってゆき、秋にはあんなに大きくなるのです。

 

 クモというと気味悪がられることが多く、また外国からの毒グモの侵入騒ぎもありよけいに嫌われてしまっているようです。しかし、クモの生活にもさまざま興味深いものがあります。クモが網を張ったからといって、直には取り払わずどうかゆっくりと観察してみてください。

                       (根来 尚)


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