研究報告第21号要約集

富山市科学文化センター

目次

原 著

  生物系

折川武司・岩坪美兼・太田道人:2倍体ユキバタツバキの形態変異 --------------------- 1

平内好子・小川重徳・澤田昭芳・佐藤卓:富山県東部の低地型ブナ林とササラダニ類 ----- 1

松村勉・平内好子・小川重徳・佐藤卓:富山県魚津市平沢トチノキ林の森林構造と

ササラダニ類-------------------------------------------------------------- 2

布村 昇:日本列島のイソコツブムシ属(甲殻綱、等脚目、コツブムシ科)(英文)------- 2

布村 昇:三陸沖から発見されたウミクワガタ科(甲殻綱、等脚目)の1新種(英文)----- 3

布村 昇:中央日本から発見されたオニナナフシ科(甲殻綱、等脚目)の1新種(英文)---- 3

布村 昇:北日本から発見されたコシビロダンゴムシ科(甲殻綱、等脚目)の1種(英文)-- 3

布村 昇:能登半島産海浜性等脚目甲殻類(英文) ------------------------------------- 4

上原 千春・鈴木 邦雄:本州中部地方に生息するオトシブミ類(鞘翅目,オトシブミ科)

の寄主植物 ---------------------------------------------------------------- 4

平内好子・加村隆英・石川和男・芝実・布村 昇:富山市古洞地周辺の土壌動物相−2 ---- 4  

篠田耕児・湯浅輝久・山野浩平:富山市古洞池におけるワシタカ類:ミサゴ・オオタカの繁殖

                                   ------ 5

南部久男・福田保・荒木克昌:

 富山県野積川におけるナガレヒキガエルとアズマヒキガエルの繁殖生態(予報)-------- 5

赤座久明・南部久男:富山県におけるハクビシンの生息状況 --------------------------- 6

短 報

村山美佳・南部久男:富山県大山町産ホンドモモンガについて ------------------------- 6

荒木 克昌・日下 智敏・南部 久男:富山県初記録のイチモンジタナゴ ---------------- 6

資 料

石坂雅昭:富山市の平地積雪断面測定資料報告 1997-98年冬 --------------------------- 7

 

<原 著>

2倍体ユキバタツバキの形態変異

Morphological Variation of Diploid Camellia japonica L. var. intermedia Tuyama

折川 武司1)・岩坪 美兼1)・太田 道人2)

1)富山大学理学部、2)富山市科学文化センター

富山県内と新潟県西部に生育するツバキ属植物(ヤブツバキ,ユキツバキ,ユキバタツバキ)の花と葉の観察をおこない,3分類群間での比較をおこなった。さらに,これら3分類群の減数分裂と花粉の観察もおこなった。その結果,ユキバタツバキには,ヤブツバキに近いものからユキツバキに近いものまでがあり,また,正常な減数分裂や花粉が観察されたことから,ユキバタツバキはヤブツバキとユキツバキの間での浸透性交雑によって生じたものと推測された。ユキバタツバキの形態変異と標高との関係では,低標高地点では,ヤブツバキに近い株からユキツバキに近い株までを含む集団がみられ,高標高地点では,低標高地点と同様に変異の大きい集団もあれば,ユキツバキに近い株からなる集団もみられた。

富山県魚津市平沢トチノキ林の森林構造とササラダニ類

Forest Structure and Oribatid Mite Fauna in Japanese Horse Chestnut Stand on Hirasawa,

Uozu-shi, Toyama Prefecture, Japan

松村 勉1)、平内好子2)、小川重徳3)、佐藤 卓4)

1)富山県立呉羽高等学校、2)富山県立新川女子高等学校、3)富山県立泊高等学校、

   4)富山県立上市高等学校

 1997年魚津市平沢地区にあるトチノキ林分の森林構造と土壌動物相を調査した。標高350〜370mの表沌滝川に沿った急斜面に成立しているトチノキの林分に40m×50mの方形区を設けた。この林の優占種はトチノキ(32.9 m2/ha in BA; 基底面積)で、二番目の種はイタヤカエデ(2.6 m2/ha in BA)であった。トチノキの密度は100/haで、富山県内のブナ林と比べると小さな値であった。トチノキの樹冠面積は1.34ha/haで、全樹冠面積(2.02ha/ha)の66%を占めていた。全個体の分布は集中分布を示したが、トチノキの個体分布はランダム分布であった。この林分の特徴は低い個体密度と、ツルアジサイ (0.14 m2/ha in BA)やツルマサキ(0.02m2/ha in BA)などの樹冠部にまで到達するツル植物が多いことである。トチノキの多くの果実は9月に落下し、リタートラップによって1m2あたり25.3個が確認された。健全な種子の重さは7.0〜13.6gで、平均11.4gであった。落下した花と果実を含む全生殖器官の重さは3.9ton/haで、落葉量(3.4ton/ha)よりも多かった。1994年と1997年に採取した土壌4資料を調べた結果、ササラダニ類は71種、1065個体が認められた。

 

 

 

 

富山県東部の低地型ブナ林とササラダニ類

Lowland Beech Forests and Orbatid Mite Fauna in Eastern Part of Toyama Prefecture, Japan

平内好子1)、小川重徳2)、澤田昭芳3)、澤田昭芳4)

1)富山県立新川女子高等学校、2)富山県立泊高等学校、3)富山県立桜井高等学校、

   4)富山県立上市高等学校

 富山県呉東地区にある宇奈月町内山と朝日町烏帽子林道のブナ林の構造とササラダニ類の組成について調査した。これら2つのブナ林分は、山地型ブナ林より低標高域に成立していることと構成種にアカガシやウラジロガシ、アオハダを含むことから、低地型ブナ林に分類された。ササラダニ類の組成を調べた結果、内山林分では54種、烏帽子林道では55種認められた。このうち内山林分の優占種はツバサクワガタダニ、烏帽子林道の優占種はコンボウイカダニであった。これら2種は共に暖温帯林ササラダニ・ファウナに一般的な種であることから、2つのブナ林分のササラダニ・ファウナは照葉樹林タイプの特徴を持つと考えられる。

日本列島のイソコツブムシ属(甲殻綱、等脚目、コツブムシ科)

On the Gnorimosphaeroma(Crustacea, Isopoda, Sphaeromatidae)

in Japan with Descriptions of Six New Species

布村 昇

富山市科学文化センター

イソコツブムシ属は本来、海にすむ動物であるが、日本列島には、数多くの個体群の存在が知られている。そこで、北海道から熊本県に至る日本列島に生息するイソコツブムシ属(甲殻綱、等脚目、コツブムシ科)の標本を収集し、口器、ほかの付属肢の形態、剛毛の生え方の状況などを比較することにより、次の6新種を含む12種の生息を確認した。

  ヒメコツブムシ(新称)Gnorimosphaeroma pulchellum n.sp.

サイゴクコツブムシ(新称)Gnorimosphaeroma iriei n.sp.

レブンコツブムシ(新称)Gnorimosphaeroma rebunsese n.sp.

ホクリクコツブムシ(新称)Gnorimosphaeroma hokurikuense n.sp.

アカンコツブムシ(新称)Gnorimosphaeroma akanense n.sp.

ツシマコツブムシ(新称)Gnorimosphaeroma tsushimaense n.sp.

イソコツブムシGnorimosphaeroma rayi Hoestlandt 1969

フタゲイソコツブムシ(新称)Gnorimosphaeroma hoestlandti Kim et Kwon,1985

マルコツブムシ Gnorimosphaeroma ovatum (Gurjanova,1933)

シナコツブムシ(新称)Gnorimosphaeroma chinesnse (Tattersall,1921)

ミギワコツブムシ(新称)Gnorimosphaeroma anchialos Jang et Kwon ,1993

チョウセンコツブムシGnorimosphaeroma naktongense Kwon et Kim, 1987

 

 

 

三陸沖から発見されたウミクワガタ科(甲殻綱、等脚目)の1新種

A New Species of the Gnathiid Isopod Crustacean from the Sea off

Sanriku, Northern Japan

布村 昇

富山市科学文化センター

 岩手県三陸沖から発見されたウミクワガタ(グナチア)を、新種Gnathia sanrikuensisとして記載した。本種はアンチル諸島から知られているGnathia johanna Monod1926 と最もよく類似するが、(1)大顎の先端が内側に突出しないこと(2)第二触角の鞭数が少ないこと、(3)頭部前側縁が細く突出すること、(4)胸脚の内縁の突起が弱いこと、(5)第2胸肢の第2節の先端に長い剛毛がないことで区別される。

中央日本から発見されたオニナナフシ(甲殻綱、等脚目)の1新種

A New Species of the Arcturid Isopod Crustacean from Gokasho Bay, Central Japan

布村 昇

富山市科学文化センター

  オニナナフシは、胸が長くのびた奇怪な形の等脚目甲殻類で、今まで日本近海からほとんど知られていなかった。このたび三重県の五ヶ所湾からAstacilla属の個体が採集され、新種Astacilla serrataとして記載した。本種はノルウェイのジョージバンク、ミケロン島、ニューファウンドランド島から知られているAstacilla granulata Sarsと類似するが(1) 腹部側縁の突起が欠如していること、(2)第2触角の先端に剛毛が少ないこと,(3) 胸脚側縁部が波状になっていること,(4)胸脚に剛毛が少ないこと 、(5)尾肢に剛毛が少ないこと等によって区別される。本種はまた、ノルウェイのロフォーテン諸島等から知られているAstacilla spusilla Sars とも類似するが、(1)腹節の側縁に突起の存在、(2)第1触角の側縁部が鋸歯状になっていること、また最終節の剛毛数が少ないこと、(3)胸肢の形態特に剛毛が少ないこと等で区別される。

北日本から発見されたコシビロダンゴムシ科(甲殻綱、等脚目)の1種

A Species of the Armadillid Isopod Crustacean from Kamaishi, Northern Japan

布村 昇

富山市科学文化センター

  コシビロダンゴムシ科は北陸から熱帯にかけて生息する小型のダンゴムシで、新潟−茨城県が北限であったが、このたび、岩手県釜石市両石の飛沫帯ないしそこに隣接する灌木からコシビロダンゴムシ科の等脚類が採集された。これは我が国における本科の最北の記録であるとともに、記載された全ての種と違いがみられる。これらの標本は関東地方ならびに韓国で知られているVenedillo obscurus(Budde-Lund)と最もよく類似するが、(1)胸部付属肢に剛毛が多いこと、(2)第1−3胸部の連結構造が深く複雑であること、(3)第1触角の先端の剛毛がより多いこと等で区別される。なお、雄の個体が採集されないので、新種としての記載は行わない。

 

能登半島産海浜性等脚目甲殻類

Marine Isopod Crustaceans Collected from Noto Peninsula, Middle Japan

布村 昇

富山市科学文化センター

 富山市科学文化センターに所蔵されている標本を中心に、石川県能登半島産の海浜産等脚類を調査した。調査は潮間帯の見付け取りのほか、一部、亜潮間帯への潜水による調査も併用している。また、ドレッジによる採集や漁獲物からの調査も一部含んでいる。その結果、29種を確認した。うち、純海産種は21種であった。また、Ligia属の一種が既知種の形態ととあわないので形態の記載を行ったが種名は決定できなかった

 

本州中部地方に生息するオトシブミ類(鞘翅目,オトシブミ科)の寄主植物

Host Plants of the Subfamilies Apoderinae and Attelabinae (Coleoptera,

Attelabidae) in the Chubu District, Central Honshu, Japan

上原 千春・鈴木 邦雄

富山大学理学部生物学教室

199597年にかけての野外での観察と室内飼育の結果に基づき、本州中部地方4県(富山・石川・岐阜・長野県)に生息するオトシブミ・アシナガオトシブミ両亜科(鞘翅目,オトシブミ科)21種の寄主植物計183種(新記録95種を含む)を報告した。種の認定に問題のある2つの種群、ヒメクロオトシブミ種群とヒゲナガオトシブミ種群(オトシブミ亜科)における寄主植物選好性について検討し、オトシブミ類の食性をめぐる諸問題について今後研究されるべき問題点を指摘した。中部地方の山岳地帯に出現するセアカヒメオトシブミの全体黒色の個体に,f. monticolus  K. Suzuki et Uehara の型名を与えた.

 

富山市古洞池周辺の土壌動物相−2

Soil Fauna of the Neighborhood of the Furudo-ike Pond, Toyama, Central Japan-

平内好子1)、加村隆英2)、石川和男3)、芝 実4)、布村 昇5)

 1)富山県立新川女子高等学校、2)追手門学院大学、3)松山東雲女子大学、4)松山東雲短期大学、

5)富山市科学文化センター

第1報に続き,富山市三熊の古洞池周辺の土壌動物相のうち、クモ類とダニ類を調査したところ、クモ類は1123種を確認した。また、ダニ類のうち,トゲダニ類とケダニ類については優占種のみ、種まで同定し、ササラダニ類は,出現した全個体について種類の同定を行った。ダニ類全体では3143種を確認した。うち,ササラダニ類は2131種であったが、地点別の出現種類数は115でいずれもかなり低かった。

 

富山市古洞池におけるワシタカ類:ミサゴ・オオタカの繁殖

Raptors-fauna of the Neighborhood of the Furudo-ike Pond,Toyama City,

Central Japan: Breeding of Osprey and Goshawk

篠田耕児1)、湯浅輝久2)、山野浩平3)

   1)富山市、2)高岡市、3)大沢野町

1993年〜1997年にかけ、富山市三ノ熊地内古洞池周辺の「県民公園野鳥の園」においてワシタカ類の生息調査を行い、7種のワシタカ類を確認した。このうちミサゴとオオタカは本地域に定着し繁殖していることが明かとなった。ミサゴの繁殖期は3月下旬頃から8月上旬頃、オオタカは3月中旬頃から7月上旬頃と推測された。ミサゴの繁殖の成功は1993年,1995年,1997年,失敗は1994年,1996年,1997年(営巣した2巣のうち1つ)、オオタカでは1993-1995年に成功し、1996年と1997年に失敗した。繁殖の失敗原因としては自然的要因の他,人為的要因が大きいのではないかと考えられる。

 

富山県野積川におけるナガレヒキガエルとアズマヒキガエルの繁殖生態(予報)

Preliminary  Note on Breeding Ecology of Bufo torrenticola and B.b.formosus

in Toyama Prefecture,Central Japan

南部久男1)、福田保2)、荒木克昌3)

  1)富山市科学文化センター、2)富山県立富山南高等高校、3)アースコンサル(株)

1996〜1997年にかけ、富山県八尾町野積川で、ナガレヒキガエルとアズマヒキガエルの繁殖生態を調査した。アズマヒキガエルの繁殖期は4月下旬から5月上旬の約1週間、ナガレヒキガエルは、4月下旬から5月中旬(1996年)、6月初旬(1997年)の2週間−1ヶ月であった。アズマヒキガエルの繁殖地は、流域内の本流水際の水溜まり3カ所で、ナガレヒキガエルは本流水際の流れの緩い部分5カ所であった。1カ所の繁殖場所では両種が繁殖していた。調査流域全体から雑種と思われる両種の中間的な特徴を持つ個体が出現した。本調査地域では、両種の繁殖時期、繁殖場所、繁殖行動における隔離は不完全であると推測された。

 

 

 

 

富山県におけるハクビシンの生息状況

Distributional Aspect of a Masked Palm Civet (Carnivora ,Viverridae) in

Toyama Prefecture, Central Japan .

赤座久明1)、南部久男2)

1)富山県立雄峰高等学校大沢野分校、2)富山市科学文化センター

富山県におけるハクビシンの生息状況を聞き取りにより調査した。本種の生息情報は富山県内21市町村から、71例が得られた。生息が確認された場所のうち、約90%が標高340m以下の丘陵地や山麓地帯であり、500m以下の県内全域の山地に広く分布していることが明かとなった。富山県での初記録は細入村の1980年で、岐阜県飛騨地方から進入してきたものと推定される。細入村を起点として、時間の経過とともに神通川流域から、富山県中央部、東部へと分布域が拡大していったと推定される。

<短報>

富山県大山町産ホンドモモンガについて

Note on  Small Japanese Flying Squirrel  from Arimine, Toyama Prefecture, Central Japan

村山美佳1)、南部久男2)

1)富山市ファミリーパーク、2)富山市科学文化センター

 ホンドモモンガ Pteromys momonga Temminckは、ネズミ目リス科に属する日本固有種で、本州、四国、九州の山地から亜高山の森林に生息するが、富山県では記録は少ない。今回、大山町有峰のブナ林で、本種の死亡個体が発見された。確認個体はメスの成獣で、頭胴長161.8mm、全長289.6mm、体重約90gであり、死亡原因は、気管支肺炎と推測された。

 

富山県初記録のイチモンジタナゴ

The First Record of Acheilognathus cyanostigma at the Sho River,in Toyama Prefecture

荒木 克昌1)・日下 智敏1)、南部 久男2)

1)アースコンサル(株)、2)富山市科学文化センター

富山県に生息するタナゴ類には、在来種のヤリタナゴ、アカヒレタビラ、イタセンパラ、移入種のタイリクバラタナゴの計4種が知られているが(田中,1978;富山市科学文化センター,1989),今回,庄川河川敷にある湛水池及びその周辺で富山県未記録であるイチモンジタナゴが確認された。イチモンジタナゴは、琵琶湖淀川水系、和歌山県紀ノ川水系、福井県三方湖、濃尾平野に分布し、最近では、アユの放流に伴い、石川県、広島県、四国各地、熊本県等、以前には生息していなかった場所で確認されていることから、今回の庄川のイチモンジタナガオもアユの放流の際混入し、移入してきた可能性が大きいと推測される。

<資料>

富山市の平地積雪断面測定資料報告、1997-98年冬

A Report of Pit-wall Observation of Deposited Snow in Toyama City,1997-1998

石坂雅昭

富山市科学文化センター

1997年の12月から1998年の3月にかけての冬期間に行った積雪の断面観測の結果を報告する。今冬期は積雪がきわめて少なかったので、測定は不定期となったが、なるべく連続して行うようにした。なお,12月に積雪期間が若干あったが、観測できなかった。