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とやまと自然 第20巻 春の号(1997年) 超新星の発見 |
◆はじめに |
◆超新星とは |
◆天文を始めたきっかけ |
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写真1.反射望遠鏡 |
◆超新星の捜索と発見 |
広い宇宙に無数とも言える程の銀河が存在します。そのなかのどの銀河にいつ超新星が出るのか誰にも判りません。しかし、それらの銀河を全て捜索することは我々アマチュアのできる事ではありませんので、比較的明るくて、大きな銀河に的をしぼり捜索することになります。私は、この富山での晴天率、捜索にあてれる時間、一晩で捜索できる銀河の数、使用する望遠鏡の性能などから、約2000程の銀河を調べることにしました。
超新星はいつ出るか判らないため同じ銀河を定期的に調べなくてはいけません。その期間を1ヶ月と決め、その季節に見える銀河を30日毎に撮影し超新星が出現していないか調べることにしました。
超新星の研究観測は、爆発した直後からその光の波長を詳しく観測するもので、星の進化や爆発のメカニズムを解明する上で大変重要なものです。超新星爆発はおよそ2〜3週間程で最大光度に達し、その後徐々に暗くなり数ヶ月程で見えなくなってしまいます。いつどこに出現するか分からない超新星ですが、最大光度前での早期発見(理想は爆発直後)が望まれています。
機器の調整を終えた平成8年2月下旬からいよいよ超新星捜索の開始となりました。超新星の発見方法は、過去のその銀河の画像と現在の画像とを見比べて新しい星が写っていないか調べるので、過去に撮った画像が必ず必要なのです。最初はもちろん超新星捜索のための自分で撮った比較画像はありませんから今後、比較するための画像を撮るしかありません。
少し比較画像がたまってきた4月のある日、からす座にある銀河を撮影しコンピューター画面にその画像が写し出された瞬間、「あっ」・・・・・。そうです、3月に撮った画像と比較したところ、新しい星が写っていたのです。初めての出来事であり、どうすればいいのか分からず、取りあえずこの新しい星が超新星なのかどうか確認してもらうため、活発に超新星捜索をしておられる八ヶ岳南麓天文台の串田麗樹さんに連絡を取ったのです。すると「その超新星は10日程前、海外で既に発見されていますね」との事でした。残念、もう少し早くこの銀河を調べていれば・・・。
しかし、既に発見されていた超新星ではありましたが、独立で見つけたのですから自分が行っている捜索方法に間違いはなかったと言う自信や、発見に対する感触が得られ、また教訓としての意味から、捜索からわずか1月半で体験した、この悔しさと後悔がそれからの捜索において随分役だったのではないかと思います。この一件がなければ、4つもの超新星の発見はなかったことでしょう。
それまで1ヶ月毎と決めていた捜索方法を10日毎に調べるように変えました。当然晴れないと星は見えませんから必ず10日毎にとは行かないもののなるべく間隔を空けないようにと心がけ撮影するようにしたのです。
それから3ヶ月が過ぎ、例年より早めに梅雨が明け、安定した天候が続いていた7月28日、いつものように捜索をし、「今夜も超新星は出ていなかったか」と、そろそろ終了しようと思い始めた午前3時半頃、南東の低空のエリダヌス座にあるNGC1084と言う銀河を望遠鏡でとらえ、撮影した画像がコンピューターに転送され画面に写し出されました。その銀河は、比較的明るい銀河のようですが、高度が低く、空の透明度があまり良くない事もあり、さほど明るくは写らなかったのですが、銀河の中心から少し北に明るい恒星像が写っていたのです。その銀河は、初めて撮る銀河で、過去に撮影した比較画像がありませんでしたので、手元にある銀河の写真集を調べてみましたが、そのあたりに銀河の濃い部分がありその写真では判断がつきませんでした。しかし、銀河の濃い部分にしては非常に明るく、はっきりとした恒星像に写っていることから超新星の可能性が高いのではないかと思い、八ヶ岳南麓天文台に連絡することにしたのです。
そこにはこの銀河の過去に撮った画像が保存されていましたのでそれを見ていただいたところ、その場所には星は写っていないと言うことで、また、現在のところその銀河に超新星が発見されたとのIAU(国際天文学連合 本部パリ)からの発表もないと言うのです。これはもしかして超新星であって、自分がその第一発見者ではないかと直感的に思いました。しかし、確かなことはその光の波長を詳しく調べないことには超新星とは断定できないのです。その確認はIAUで行われます。取りあえずその星の精密な位置、明るさ等を測り、規定の書式で一刻も早くIAUに報告しなくてはいけません。興奮しながらも慎重に測定し発見から2時間程経過した午前5時半頃報告を終えたのです。
報告を済ませれば後はその結果を待つだけとなりますが、超新星だった場合、数日の内には正式に公表され、その情報は全世界の研究機関や天文台に伝わります。その数日間の時間は発見者にとって数ヶ月のように感じられるもので、試験の後の合格発表を待つ心境のようなものです。自信はあるものの発表されるまでは安心できないと言ったところでしょうか。そして、発見報告から3日後の7月31日午前7時頃、八ヶ岳南麓天文台から1枚のFAXが入りました。内容はIAUから会報が出て、超新星の発見が公開されたとのことでした。「やったー。バンザーイ」飛び起きて思わず叫びました。
この発見は、自分だけで発見したのではなく、妻や家族全員での発見と私は思っています。仕事から帰り、晴れていればすぐ観測を始め、明け方まで続け、仮眠をとりまた仕事に出かける。そんな超新星捜索を優先した生活が続いたのです。家族の理解があったからこそこの発見につながったものであり、自分以上に家族が喜んでくれたことについて本当に天文を続けてきて良かった、超新星捜索をして良かったと今は感じている次第です。
新天体の発見は、2度続くとよく言われています。そんなことは自分にはあてはまらないだろうと思っていたのですが、1つ目の発見から3週間後の8月17日乙女座にあるNGC5584と言う銀河に出現した超新星を発見し、更に12月15から16日かけての一晩に2つもの超新星を発見することができました。全世界で年間およそ数十個程発見される超新星ですが、自分がこれほどに発見できるとは想像もしなかったことです。
最近はプロの観測者により、非常に暗い超新星が数多く発見されるようになりました。その数は年々増える傾向にあり、やがて我々アマチュアには発見のチャンスがなくなることになるかもしれません。それまでは今の超新星捜索を続け、早期に発見し、その研究に役立てたいと考えています。
◆おわりに |