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とやまと自然 第20巻 夏の号(1997年)
天文台が新しくなりました。

布村克志

永らく、市民の皆さまに親しまれてきました富山市天文台は、7月、富山市南西の古洞ダムのほとりに、新たにオープンします。望遠鏡は従来の口径40cmから1.0mへと大きくなり、今までの望遠鏡では見えなかった、よりかすかな星や、遠くの天体などもとらえることができるようになります。ほかにも、たくさんの新しい設備や機能がありますので、ご紹介します。

★呉羽山の天文台
 昭和31年、火星大接近を機に呉羽山に建設された富山市天文台は、当時国産最大級の40cm反射望遠鏡を備え活躍してきました。しかし、時が経つにつれて周りに街灯が多くなり、夜空が明るくなって望遠鏡の性能を十分に発揮することができなくなってきました。また、天文台ができる約2年前にすでに完成していた40cm望遠鏡も43年あまり経ち、あちこちに傷みが出てくるようになりました。そこで、もっと星のよく見える場所に新しい天文台を作ることになりました。

★古洞池
 選ばれた場所は、富山市内でもっとも南西の三熊地内です。そこには古洞池という富山市内で唯一のダム湖があり、その周囲は「県民公園野鳥の園」に指定されており、大変自然の豊かなところです。この古洞池は、射水平野に農業用水を送るために作られたものですが、ここにはカワウが生息しており、冬にはカモなどの渡り鳥がたくさんやってきます。また、周囲の林の中にもシジュウカラやメジロなどたくさんの野鳥の姿が見られ、そのさえずりなども聞こえてきます。
 そんな自然の豊かな所に、新しい富山市天文台が建てられることになりました。場所は古洞ダムサイトから約800mほど南に入った、古洞池に突き出たところです。
 ただし、ダムサイトから奥はすべて「県民公園野鳥の園」に指定されていますので、そこへは自動車やオートバイは入ることはできません。


★新しい天文台
 新しい天文台は呉羽山にあったものより規模もずっと大きくなります。望遠鏡は今までの40cm反射望遠鏡に代わって、口径が1.0mでコンピュータでコントロールする最新鋭の望遠鏡です。また、内部には、望遠鏡以外にも、曇ったときや、昼間でも星や星座などが調べられるように「星空の部屋」や「天文展示コーナー」をもうけてあります。さらに、周囲の豊かな自然を観察できる「野鳥観察コーナー」があります。また、屋上には、双眼鏡などを使用して、天文台の周りに見られる、たくさんの鳥たちを観察することもできます。

★天体観測室
 1.0m望遠鏡がおさまっている直径が9mドームのある4階の観測室には車椅子に乗ったままでも行けるように、3階までのエレベータと、観測室内の階段にはリフトが備えられています。
 この天文台では、天体観測の障害となる空気の乱れを少しでも少なくするために、建物本体から出る熱や、地上からの熱を避けて望遠鏡のある天体観測室を建物の南側につき出た高さ約10mの部分に独立に造りました。また、その下の部分には熱を出すものはいっさい置かないようにして、少しでも天体が良く見えるように工夫しています。

★1m望遠鏡
 このドームの中に全国の公開天文台のなかでも最大級の直径1.0mの反射鏡を持つ望遠鏡が据え付けられています。望遠鏡はその口径が大きくなると、より暗い星まで見えるようになりますが、呉羽山よりもずっと、人工の光の少ない古洞に移ったために、今までの天文台では観察できなかった暗い天体も観察できるようになります。
 また、この望遠鏡はアメリカのコントラベス社製で、コンピュータ制御のナスミス式経緯儀という、日本でも数少ないタイプの望遠鏡です。

 ナスミス式経緯儀の望遠鏡は、鏡筒が上下左右に動くものですが、上下に動く軸の中を通ってくる光をのぞくので、鏡筒が上下に動いてもまったくのぞく位置が変わりません。また、その高さを130cmにしてあり、どの星を見てもいつも楽な姿勢で見ることができます。
 さらに、のぞき口を二つに分けてあり、一方を100cmの高さにできますので、車椅子に座ったままでも、さらに2人同時にのぞくことも可能です。接眼鏡には広い範囲が見えるものを使い、さらに、望遠鏡には冷却CCDカメラやカラービデオカメラも取り付けてあります。特に冷却CCDカメラは、とても暗い天体を撮影できる最新の装置で、望遠鏡を肉眼でのぞいただけではとても見えないようなはるか彼方にある暗い銀河をとらえることができます。観望会のとき、この装置によって、撮影した画像もコンピュータを通してみることができます。
 また、この望遠鏡は、コンピュータ・コントロールによって、従来の望遠鏡と比べ、はるかに正確に目的の星をとらえますので、短時間でもたくさんの星を観察することができます。さらにその性能を生かして、今までの天体望遠鏡ではできなかった、人工衛星を追いかけることが可能になります。


★星空の部屋
 1階の玄関を入った所には、直径約7mの天井がドームになった「星空の部屋」があります。ここは、2400本あまりの光ファイバーを使って四季の星座を表し、実際にキラキラと光輝く星空を再現しています。その他にコンピュータでコントロールされたビデオプロジェクターやたくさんのスライド投映器で実際に撮影した天体などを映し出すこともできます。
 また、いろいろな番組が用意してあるので、来館者がいつでも自由に出入りして、自分で好きな番組を選んで見ることができ、星や星座のことなど自分で勉強することができるようになっています。
 ここでは夜に雨が降ったり、曇ったりして星が見えないときでも、星や宇宙のことなどについて職員が解説したりもします。

★天文展示コーナー
 2階エレベータ出口正面には天文展示コーナーがあります。ここは宇宙船に乗った気分で、船外の天体をながめるという雰囲気でつくられています。その中で、晴れていれば、いつも屋上に設置されている太陽望遠鏡からの太陽の画像を映し出しそれを自分でスケッチできる「太陽にふれてみよう」や、実際に手で触れることのできるいん石、地上に落下する前の様子を捉えた貴重な写真なども展示しています。
 さらに、コンピュータやビデオの映像で、星や宇宙の不思議を探検する「わくわく宇宙探検」「宇宙の海原へ」があり、楽しみながら勉強できるでしょう。

★野鳥観察コーナー
 2階の東側に張り出した三方がガラス張りの部屋には、双眼鏡やフィールドスコープが備えられています。それらを使って自由に周囲の豊かな自然や鳥などを観察することができます。
 また、古洞池周辺の野鳥や自然のことなどがわかるコンピュータ「古洞の野鳥」や、鳴き声とバードカービングで古洞の代表的な野鳥を実感できる「野鳥の鳴き声」で、自然についての学習もできます。

★利用について
 新しい天文台では、毎週木・金・土曜日に午後9時30分まで開館しており、午後7時30分から観望会を開きます。観望会では1.0m望遠鏡を直接にのぞいて観察するほかに、太陽望遠鏡からの月の映像を見たり、冷却CCDカメラの画像を見ることもできます。このカメラは、人間の目よりはるかに感度が高いので望遠鏡を肉眼でのぞいただけでは暗くて見えないような天体も写すことができます。さらに、屋上に出て星座の観察や、小型の望遠鏡を自由に使用して、好きな星の観察もできます。
 天文台といっても利用できるのは夜だけではありません。日・火・水・土曜は午前9時から、木・金曜は午後1時30分から開館していますので、昼でも「星空の部屋」、「天文展示コーナー」、「野鳥観察コーナー」で、展示用のコンピュータを自分で操作して、星や宇宙のこと、鳥や古洞の自然のことなど様々なことを調べてください。もし、星や宇宙のことでわからないことがあれば、職員に質問することもできますから、ぜひ天文台をご利用ください。

(天文担当 ぬのむら かつし)
第20巻 夏の号 目次

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最終更新 2008-03-25
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