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とやまと自然 第20巻 夏の号(1997年)
特別展「ゆれる--水辺の植物--」への招待

坂井 奈緒子・太田 道人

山々に降り積もった雪がとけて豊富な水となり、富山平野をうるおして海へと流れ下る間には、実にさまざまな水辺があり、いろいろな生き物たちがすんでいます(図1)。水辺は多くの生き物にとってかけがえのないすみ場所です。しかし、その水辺はわずかな年月の間に大きく変わり、失われつつあります。
科学文化センターでは、特別展「ゆれる―水辺の植物―」を7月17日(木)から10月5日(日)まで開催します。特別展では、富山の代表的な水辺や人との関わりで変化し失われつつある水辺などを紹介し、私たち人と水辺の望ましい関係について提案します。富山の水辺の豊かさを感じとっていただき、人と自然との調和、自然豊かな水辺を取り戻すにはどのようにすればよいかを考えるきっかけとしていただければと思います。


■富山の水辺を見てみよう
 富山の川は高い山から海へ一気に流れ下るので、世界でも有数の流れの速い河川です。水の流れは、時に強烈な力で石や岩を運び、一帯に広い荒原をつくり出します。常願寺川や神通川などの石がゴロゴロした河原には、アキグミが林をつくっています(図2)。
 また下流の流れのゆるやかな所には、ヨシの原が広がります(図3)。さらに、氷見市や新湊市のいくつもの河川が集まった海岸に近い地域には、かつて潟という海岸の浅い湖がありました。富山の河川にはどのような水辺があるのか、そしてどんな生き物たちがすんでいるのか、またすんでいたのか見てみましょう。

■となりに水辺があったころ−自然ゆたかな水辺−
 ほんの少し前まで、私たちの身の回りには、自然のゆたかな水辺がたくさんありました。田んぼの間を流れる小川では水藻や水草がしげり、ホタルが飛びかい、トミヨが巣をつくり、ため池やヨシの原ではいろいろな水草が花を咲かせ、たくさんのフナやコイ、貝がすんでいました(図4)。私たちは時にはヒシの実やジュンサイの若芽、フナやコイ、タニシなどをとって食べたり、日よけや風よけ、雪囲いにヨシでよしずを作ったりして水辺の自然を活用してきました。
そして、農業で生計をたてていた大人の目には、じゃまだったり役にたたない水藻や水草、昆虫、貝、魚がすむ水辺は、子供達にとっては大切な遊び場でした。


■水辺が遠くなっていく
 洪水の被害をふせぐため人々は、河川を改修し、ダムをつくり、農地を整備するなど、水を人にとってつごうよく流す努力を続け、私たちのくらしを安全で便利にしてきました(図6)。
 しかしその一方で、水辺の生き物はすみかを追われ、人と水辺との間には、いつの間にか目には見えない垣根ができてしまいました。かつて子供たちが遊んだ水辺は現在、大きく変わってしまっています。
 私たちの身の回りの小川は、底も側面もコンクリートで固められ、水をただ流すための水路になってしまいました。ため池は埋め立てられたり、岸をコンクリートで固められ、フェンスで囲まれて人が近づくことができないようになっているところもあります。田んぼにいた生き物たちも、除草剤の影響で、姿を消しつつあります。今では、水辺で遊ぶ子供の姿を見かけることはめったにありません。


■水辺と共に生きる「これから」
 ゆたかで魅力にあふれる水辺を呼びもどすにはどのようにしていけばよいのでしょうか。
 最近、洪水から私たちのくらしを守るための河川改修の方法が少しずつ変わってきています。ただ水を流すためだけのコンクリートの水路ではなくて、水辺の生き物たちのことを考えた水路がつくられ始めました(図7)。底にコンクリートを張ることをやめ、岸辺にはわざと砂や泥をたまりやすくした場所をつくって植物がすめるようにしたり、ゆるやかな流れがすみかの生き物たちのことを考えて水の流れ方を工夫したり、水生昆虫や魚の隠れ場所をつくったり、サケなどの魚が海から川の上流にさかのぼれるように水路の大きな段差をなくしたりと生き物の生育を考えた試みが実施され始めました。
 また、水辺までなだらかな通路をつくって、人が水辺に近づきやすいようにもされるようになりつつあります。
 ぜひ、この特別展をご覧になって、水辺にふれ、水辺を見つめ直してみてください。


(植物担当 さかい なおこ・おおた みちひと)
第20巻 夏の号 目次

富山市科学博物館
最終更新 2008-03-25
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