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とやまと自然 第20巻 冬の号(1998年) 
 
吉村 博儀
 
冬になると富山では雪がふります。この雪がどこで生まれ、どのようにふってくるのか。また、どういうときにたくさんの雪がふるかなどを、雪のことをよく知っているお父さんと娘の雪子ちゃんという二人の登場人物を通してお話いたします。
 
初 雪
雪 「お父さん、今日は初雪だって」
父 「そうか、朝出かけるときは冷たい雨がふっていたけど、帰るときには晴れてい たから気がつかなかったよ」
雪 「冬になっても、このごろ、あまり雪がふらないね」
父 「そうだな、昔にくらべればあまりふらないね」
雪 「地球温暖化のせいね」
父 「むずかしい言葉をしっているな。過去50年間の気温の変化をみれば、富山では
  たしかに気温は上がっているといえる」
図1 富山地方気象台の年平均気温の変化
雪 「この図はどう見るの?」
父 「うん、折れ線グラフが1939年からの富山の年平均気温の移り変わり」
雪 「年によってばらつきがあるのね」
父 「一番低かった1945年と高かった1990年では3℃近くの差があるよ」
雪 「直線は?」
父 「これは折れ線グラフを直線に近似したものだよ。
  これを見ると毎年1/100℃くらいずつ気温が上がってきているといえるんだ」
雪 「1年に1/100℃、ということは50年で、え〜と0.5℃か」
父 「世界的に見ても、気温の上昇は見られる。いづれにしてもこういうことは過去
  のデータがないと調べようがない。気象データの積み重ねが大事だといえる」
雪 「そうよね」
父 「もっと短い期間について見てみよう。これは1970年から1994年までの富山の
  1月の平均気温を調べたグラフだよ」
図2 1970年〜1994年冬気温
雪 「ギザギザはその年の気温ね」
父 「そう、そして曲線は気温変化の傾向だ」
雪 「1973年ころから1982年までの10年間は気温が下がる傾向にある。でも1983年
  ころから1992年までの10年間は上がる傾向にある。それからまた下がるのな?」
父 「そう、こういう傾向が続くのだったらこれから気温は下がるといっていいね。
  おもしろいのは。この曲線のいちばん底だ」
雪 「底はえ〜と1981年ころかな。ああ、そういえば、たしか、1981年と1984年
  はそれぞれ、56豪雪、59豪雪といってたくさん雪がふったんじゃなかった?」
父 「そのとおりこの曲線で気温の一番低い頃に大雪がふった」
雪 「ということは、やがて豪雪がやってくるかもしれないっていうわけ?」
父 「さあ、どうかな? 最近あまり雪が積もらないからといって、このままず〜っと
  暖い冬が続くとは限らないよ」
雪 「もしかしたら大雪がふったりして」
父 「災害は忘れたころにやってくるというからね」
 
38 豪 雪
父 「忘れたころにならないように、大雪のことを話しておくかな。図3は1939年か
  ら1996年までのそれぞれの冬の季節にどれくらい雪がふったかを示したグラフだ
  よ」
雪 「ばらばらね。でも、最近では1987年からはあまりふっていないことがわかる」
父 「たしかにここ10年ほどはあまりふっていないね。1989年なんか、ひと冬
  100cmもふっていない」
雪 「わたしはまだ生まれていなかったけれど、1963年の冬はすごかったんでしょ。
  道路に積もった雪が除雪できなくて家の二階くらいまで積もり、外からそのまま
  家の二階に入れたとか。学校は休みになったとか、電車がほとんど動かなかった
  とか」 父 「38豪雪とよばれているね。富山ではいちばん深いときで186cm、伏木では
  225cmもあったんだよ。家の玄関の雪を取り除いて近くの食堂に出かけ1時間ほ
  どして帰ってきたら長靴を越えるほどつもっていたこともあったよ」
図3.富山の降雪量(1939年〜1996年)
雪 「へ〜っ、すごい。でも225cmも積もれば2階まで届いてもおかしくないね。こ
  の図を見ると38豪雪よりもっと最近の56豪雪の方が多くふっているよ。というこ
  とは、もしかしたら深いときで3mもあったりして」
父 「56豪雪もひどかったが、このときは最深積雪は富山では160cm」
雪「 あれっ、少ないんだ」
父 「38豪雪のときは、1月15日から約2週間の間にまとめてふったけど、他はあま
  りふらなかった。一方、56豪雪のときはふっては止み、ふっては止みが一ヶ月ほ
  ど続いたんだ。その間、気温が低いから雪がとけないため、毎日毎日雪という感
  じがしてうんざりしたことを覚えているよ」
雪 「同じ豪雪でもいろいろあるのね」
 
雪はふる
雪 「お父さん、豪雪っていつ起きるの?」
父 「うん、その前に雪子は雪はどうやってふるか知っているか?」
雪 「すこしね。冬になると大陸が冷えて、そこでたまった冷たい空気が日本海に流
  れ出す。え〜と、それから???」
父 「冷たい空気はそれにくらべてあたたかい日本海からたくさんの水蒸気をもら
  う」
雪 「水蒸気は冷えて雲を作る。そして、それが雪をふらせる」
父 「ちょっと待った。雲ができるまではいいが、その後は早とちり。雪をふらせる
  ためには雲は高く成長する必要がある」
雪 「成長すればいいんでしょ」
父 「ところが、この雲は高さが2000mくらいよりは高くならない」
雪 「どうして?」
父 「それより上には逆転層がある」
図4.雪のふるわけ(大陸から日本列島)
雪 「逆転層?」
父 「ふつう気温は高い所に登るにつれてだんだん下がるね」
雪 「今年の夏、立山に登ったけれど涼しかった」
父 「ところがこの層では逆に気温が上がる。そこで逆転層というわけだ。これがあ
  ると、雲はそこを突き抜けられない。日本にやってくると、高い山脈にぶつかり
  強制的に上昇することによって、雲は成長し、雪をふらせるんだ。このときの地
  上の天気図が図5だ」
 
山雪・里雪
雪 「知ってる。西高東低ね」
  •       図5 地上天気図 山雪
    父 「そう大陸に高気圧が、日本の東に低気圧がある気圧配置だ。同じ気圧の線を結
      んだ等圧線を見ると、たてになっている」
    雪 「線がいっぱい上から下へ引いてあるのね。大雪だ、大雪だ」
    父 「違うよ、ふつう、こんなときは平野にはあまり雪はふらない。山を中心にふる
      から「山雪」というのさ」
    雪 「それじゃ、町にふるのは、まちゆきだ」
    父 「里雪というんだよ。里雪の代表的な天気図は図6だ。山雪のときと比べて、等
      圧線がすこし横になっていないかい」
    雪 「うん」
       
        図6 地上天気図 里雪         図7 山雪500hPa気温        図8 里雪500hPa気温

    父 「こんどは高い空のようすを見てみよう」
    雪 「高いってどれくらい」
    父 「雪がふるとき、天気予報の時間によく耳にしないかい?。ほら輪島の上空」
    雪 「あっ、5500mだ」
    父 「そうだね。この高さは気圧でいうと500ヘクトパスカル、地上の気圧の半分の
      ところにあたるんだ」
    雪 「ふ〜ん。でも5500mのほうがわかりやすい」
    父 「そうだな。それじゃ図7をみてごらん。ほんとうの高層天気図は複雑だから、
      その中から気温の分布だけを選んでかいたものだよ」

    雪 「いちばん寒いところはマイナス40℃で、それが北海道にある」
    父 「富山は?」
    雪 「マイナス30℃と35℃の間にある」
    父 「雪になるか、雨になるかの目安はマイナス30℃だから、この場合は富山は雪だ
      な」
    雪 「そうなの」
    父 「図8は里雪のときの天気図だが、山雪のときとどう違う?」
    雪 「え〜と、山雪では寒気が北海道にあったけど、里雪では日本海にある」
    図9 雪をふらせる雲の説明図
    父 「そのとおり。このように上空の空気がとても冷たいと、その状態はとても不安
      定なので、山雪のときのように山がなくても激しい空気の上昇で雲が成長する」
       
    雪 「山がなくても雪がふる。それで運が悪いと里にふって、大雪というわけね」
    父 「そういうことだね」
     
    寒冷渦(かんれいうず)
    父 「雪子はおぼえていないかもしれないけど、今年の5月の下旬は気温が低くて、そ
      の上雨がふり続いた」
    雪 「お父さんは、しんきろうが好きだから春の天気に関心あるかもしれないけど、
      わたしがそんなことおぼえているわけがないわ。だいいち、雪の話なのになんで
      春に飛んじゃうの?」
     
    図10  1997年5月の新聞天気図           図11 1997年5月20日500hPa気温
    父 「まあ、そういわずに話を聞きなさい。これがそのころの毎日の天気図だ。なに
      か気がつくことはないか?」
    雪 「富山の近くで弱い低気圧があまり場所を変えずにずっといる」
    父 「このときのある日の高さ約5500mの天気図を見てみよう。これも雪のときと同
      じように温度の分布だけを残してかいたものだ」
    雪 「あっ、里雪のときのように冷たい空気が日本海にある」
    父 「そう、-20度といったら5月の下旬としては非常に冷たい。これは難しい言葉だ
      けど「寒冷渦」といわれている。これが冬やってくると、豪雪をもたらすことが
      ある」
    雪 「どうして?」
    父 「上空はとても冷たい。そういう状態では大気は不安定だから、雲は発達すると
      いうことはさっきいったね」
    雪 「里雪ね」
    父 「それから新聞天気図で見たように動きがとても遅い」
    雪 「雪がずっとつづく」
    父 「その通り。それから上空の冷たさは雪のでき方にも影響する」
    雪 「どういうこと?」
    父 「−40℃より気温が下がると、雲の中では雪を作るもとである小さな氷の結晶
      が急激にたくさんできるようになる」
    雪 「わけは難しそうだから聞かないけど、小さな氷の結晶が増えると、雪がたくさ
      んふることになるのね」
    父 「そうそう。こんなわけで寒冷渦が豪雪をもたらすことがあるんだ」
    雪 「もしかして38豪雪は?」
    父 「そう、寒冷渦がもたらしたものだよ。ふつうの低気圧だったら1日くらいで進む
      ところを、何日もかけて進んでいることが図12からわかるだろ」
    雪 「うん」

    図12 38豪雪 寒冷渦の動き
    父 「寒冷渦というものはわりとやってくるけど、その動きがゆっくりだと注意が必
      要だ」
    雪 「でも、さっき見たように新聞天気図ではあまり目立たないよ」
    父 「地上では弱い低気圧としてしかあらわされないからね」
    雪 「弱いからといって安心しちゃいけないわけだ」
    父 「そうだよ。これから天気予報の時間に天気図を見て、これは山雪だからあまり
      ふらないかな、この弱い低気圧は寒冷渦だから雪がたくさんふるかな、なんて考
      えながら天気を自分なりに予想してみるのもいいかもしれないね」
    雪 「うん、さっそくやってみるわ。それからこれも大切ね『災害は忘れた頃にやっ
      てくる』」
    父 「そうだ。きもにめいじておこう」
    雪 「うん」
    (気象担当 よしむら ひろよし)
    第20巻 冬の号 目次

    富山市科学博物館
    最終更新 2008-03-25
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