今月の話題(物理)
氷の花−チンダルの花−

No.225

 イギリスの科学者チンダル(1820-1893)は、アルプスの氷河を見てすっかり氷河のとりこになって、後半生を氷河の研究に捧げました。その彼が、アルプスの氷河の氷の中に小さな花のような模様ができているのを見つけスケッチを残しました。そこで、この現象を「チンダルの花」、または「チンダル像」と呼んでいます。

いったい何者

 チンダル像はその後の研究によって、氷に強い光があたった時に、氷の内部がとけてできたものであることがわかりました。もちろん表面もとけるのですが、内部でもごくごく小さなゴミや氷の構造の弱い部分からとけだして、氷ととけた水の境界がチンダル像になるのです。なぜ、そのよう

        チンダル像がはっきりわかる照明法でとられている。 真ん中の円が気泡。

        二重になっている円の小さい方は、気泡が氷と接している部分と思われる。 

な所からとけだすかはまだはっきりわかってはいませんが、いったんとけだすと、今度は氷と水の境界で光を吸収してどんどんとけていきます。初めは円形の像ができ、やがて雪の結晶の枝が六本になるように、氷の結晶の六つの水平な方向にそって大きくなっていきますが、像の形は光の強さによっても変わってきます。したがって、像は上から見ると写真のような広がりをもっていますが、横から見た姿は大変うすいものです。中心に丸く見えるものは気泡です。氷がとけて水になると体積が減るので、その分を補うように気泡(ほとんどは水蒸気)ができているのです。

チンダル像を見よう
 チンダル像は、どんな氷にでもできるかというと、そうではありません。一般に氷を作ると、その内部では氷の結晶はさまざま方向を持った部分が集まって凍っています。一方、チンダル像ができる氷は、内部で結晶の方向が一定の方向にそろっていなければなりません。これを観察するのによい氷は、例えば寒い夜に大きなバケツやたらいに張る氷(池や水たまりでもよいが、あまり厚くならないのが欠点)、大きな冷凍庫でゆっくり凍らせたものなどです。このような氷を家庭の冷蔵庫で作るには、発泡スチロールに深さ5cmほど水を入れ、10時間ほど置いて、厚さが1センチぐらいの時に取り出したものが良いようです(加賀市雪の科学館の話)。このようにすると、氷は側面ではなく、水面の中央付近からでき始め、結晶のそろったきれいなものが得られるからです。

 光は、強い電球や太陽の光を使います。できる像は1cm以下の小さなものなので、虫目がねや実体顕微鏡を使って見ます。また、オーバーヘッドプロジェクター(OHP)にこのような氷をおくと、OHPの光でチンダル像ができ、さらにそれが拡大されてスクリーンに写るので便利です。一度挑戦してみてはいかがですか。

補足:加賀市の雪の科学館には、OHPを使って像を見る展示がありますので、参考になると思います。

(石坂雅昭)

1996.12.01

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