No.238
空から降る雪の結晶を地上でつくることに世界で初めて成功したのは、中谷宇吉郎博士でした。それは、1936年のことでした。その時の装置はガラスの筒で作ったもので、雪は金属製のふたにつるしたウサギの毛の一部から成長するという簡単なものでしたが、雪ができる寒さが必要でしたので、装置全体は大きな冷凍庫の中に置かれていました。
それから60年ほどたった現在、私たちはこたつに入ってペットボトルの中にできる雪を観察することができます。この簡単に人工雪結晶の成長を観察できる装置を考え出したのは旭川西高校教諭の平松和彦さんです。今回は平松式ペットボトル人工雪装置の作り方を紹介します。
用意するものは、500ミリリットルのペットボトル(凹凸が少ないもの)、発砲スチロールのクーラーボックス(平松先生は魚釣りのえさを入れておくものを使っている)、つり糸(03号程度)、ゴム栓、消しゴム(ペットボトルの口から入るぐらいに小さく、さいころ状に切ったもの)、そしてドライアイス1〜1.5kgです。
図 平松和彦「ペットボトルで雪の結晶を作る」より
クーラーボックスのふたにペットボトルがぎりぎり入るくらいの穴をあけておきます。つり糸(50cm程度)の真ん中に消しゴムをホチキスでとめ、つり糸の両端を持ってペットボトル中へ消しゴムを沈めるように入れていきます。消しゴムが底に着いたら、ボトルの中へ息を数回ふきこみ、つり糸がピンと張った状態でゴム栓をします。その後、クーラーボックスの壁にそってドライアイスを並べ、ふたの穴におさまったペットボトルが真ん中にくるような状態でふたをします。これで完成です。横から見るとちょうど図のような状態になっているはずです。
さて、この装置を静かに置いておくと、10〜15分ほどすると中の糸にきれいな樹枝状(木の枝のように)の雪の結晶が枝を伸ばしているのが観察できます。ドライアイスはおよそマイナス80℃、首を出しているペットボトルの部分は室温ですから20℃ほどでしょうか。したがって、ペットボトルの中の空気は下の部分から上へと急激に温度が高くなっています。雪が最も速く成長するのはマイナス15℃あたりで、そこでは、雪の結晶は樹枝状に成長します。したがって、ペットボトルの中では、雪が観察される糸のあたりがちょうどその温度にあたることになります。
雪ができるのには、マイナスの気温と小さなチリなどの芯になるもの、それから湿り気(水蒸気)が必要です。芯の役目はつり糸がはたしますが、湿り気は前に吹き込んだ息の中の水蒸気がその役目をはたします。水蒸気が十分でないと雪はうまく成長できません。そこでぬれたペットボトルを使うなどの工夫もしてみると良いでしょう。
この平松式の人工雪装置は、身近にある材料で簡単にでき、暖かい部屋の中で雪の成長する瞬間を見ることができます。一度挑戦してみて下さい。ただし、ドライアイスはマイナス80℃近くにもなっていて直接手でさわっては危険ですので、必ず手袋をして下さい。また、ドライアイスの蒸気を大量に発生させると二酸化炭素が発生して酸欠状態になるので、締め切った部屋などで大量のドライアイスをあつかわないように注意が必要です。
(石坂雅昭)
1998.01.01