地球があつくなる?

−地球の温暖化の問題−

No.242


 気象庁は、二酸化炭素が毎年1パーセントずつ増え続けていくと、2060年頃には1990年の二倍の量になり、その結果、地球の気温は平均で1.6℃上昇するという予測を発表しました。1.6℃とは、わずかな値と思う人も多いでしょう。どうして、こんな小さい温度上昇が問題になるのでしょう。また、地球が暖まるとなぜ心配されているのでしょうか。


なぜ地球があつくなるの?

 私たちは地球の表面に住んでいますが、そこの温度は主に地表にふりそそぐ太陽の光と地球から宇宙へ逃げ出す熱とのバランスで決まります。太陽の光があたると地面が暖まり、暖まった地面から熱が熱線(赤外線)のかたちで宇宙へ逃げていきます。ところが、空気中に含まれている二酸化炭素やメタン、あるいは水蒸気などの気体は、この熱線を吸収して再び熱を地面へ送り返してきます。もちろん一部は宇宙へも出ていきますが、これらの気体は全体として宇宙へにげる熱の量をおさえるようにはたらきます。そのおかげで、地球の現在の平均的な温度は15℃ですが、もしこれらの気体がないと、はるかに低い温度-18℃になってしまいます。ヒトをはじめ多くの生物は住めない世界です。したがって、二酸化炭素などの地球が冷えるのを防ぐ気体は、われわれの生存にはなくてはならない大切なものなのです。ところが、現在これらの気体が増え続けていて、そのために宇宙へにげる熱がおさえられ、地球全体が次第に暖かくなってきているのではないかということが大きな問題になってます。特に二酸化炭素は、石油や石炭などを燃やすと必ず発生します。車や発電、冷暖房など、私たちが生活するために必要な多くのエネルギーをこれらの燃料からとっているので、人間が活動すればするほど増え続けていく仕組みになっています。図2をみても、産業革命からゆっくりと増え続けてきた二酸化炭素が、20世紀になって急速に増加していることがわかります。


1.6℃はきわめて大きな上昇!

 そこで、このまま二酸化炭素が増え続けると地球の温度はどうなるかということをさまざまな研究所で予想しています。その一つがはじめに述べた気象庁の予想で、最近の研究成果を取り入れたものです。わずか1%ずつ増加するとしても70年後に二酸化炭素が2倍になり、地球の気温が平均で1.6℃上がるという研究結果です。温度の上昇は小さな値と思うかもしれませんが、地球全体としての平均の気温は、そう変化するものではないのです。例えば、ヨーロッパや北アメリカの多くの部分が氷河におおわれていた氷河時代は今から1万年前に終わりましたが、その時に上がった気温がおよそ5℃といわれています。わずか5℃下がると氷河時代へ逆もどりです。その後、地球の気温は約9000年間にわたり比較的落ち着いた状態が続いています。図3には、年輪や植物の花粉などからわかる約1000年前からの地球の全体の平均気温を示しました。中世の温暖期や日本でもききんが続いた江戸時代末期の小氷期などで気温の上下はありますが、その変化の幅は1℃以内です。したがって、1.6℃はとても大きな値なのです。また、図には、予想される気温の上昇も描いてありますが、気温の上昇が急激であることがわかると思います。上昇の速さはおそらく過去1万年間では経験したこともないものなのです。もし、こうなるとどのような気候の変化があるのか正確には予想できませんが、おそらく激しいものだと考えられます。

 ただ、地球の温度を決める仕組みがすべてわかっているわけではないので、突然地球が冷えだしたり、二酸化炭素が何かに吸収されて予想どおりに温暖化が進まない可能性もあります。しかし、少なくとも人間の活動によって急激な気候の変化をまねき大きな混乱を生じないように今から研究し対策をたてることは、次の世紀へ地球を引き渡す私たちの責任ではないでしょうか。

                                  (石坂雅昭)

平成10年5月1日

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