今月の話題(古生物)
富山の恐竜化石
No.241
長い間探し続けた恐竜に私がようやくめぐりあったのは、平成2年の11月のことでした。昼前の薄曇りの中、大山町亀谷の和田川の左岸に沿った林道を車で上っていくと、川をはさんだ対岸の大きながけが私の目に入りました。やや白みがかった砂岩と黒い泥岩とが交互に重なって縞模様になっている様子が、遠いところからもはっきりとわかりました。そのがけの対岸までのびている道の終点で車を止め、車から降りてあたりを見回しました。水の少なくなった川の向こうにめざすがけがありました。がけに近づき、ぼろぼろと崩れてえぐれた泥岩の上に突き出した、砂岩の層の下面を見た瞬間、三本の指の跡がはっきりと確認できました。ついに、富山県で初めての恐竜化石が見つかったのです。ドキドキと心臓の高鳴りを覚えながらしばらくその足跡を眺めていました。 あれから、七年余りのうちに、富山県でもいたるところに恐竜の足跡化石が発見されました。特に、平成八年夏に行われた富山県恐竜足跡化石調査では、県東部から300個余りにも及ぶ大小さまざまな恐竜と、75個の「鳥」の足跡が報告されました。この数は、今まで日本国内では類を見ないほど大規模なものです。 足跡からは、足の裏の大きさが1メートルにもなるような大型で四つ足の草食恐竜(推定体長は不明)、中型の草食恐竜や肉食恐竜(推定体長が5〜6メートル)、小型の草食恐竜(推定体長1〜2メートル)が見られます。
@平成2年11月、大山町亀谷で発見された肉食恐竜の足跡化石
足の長さは37cm 足跡とともに出てくる立木の跡やたくさんの植物化石からは、そこに森林が生い茂っていたことが想像でき、イチョウ類やシダ類を中心とするその種類からは温暖で湿潤な気候であったことが類推できます。また、地層の特徴からは、扇状地や蛇行河川の氾濫原や草木の生い茂る沼地などが恐竜たちの生活環境の中にあったことがわかりました。さらに、火山灰をふくむ層が足跡化石の地層のすぐ上にあることから、火山の噴火に遭遇したかあるいは遠くから噴火を見ていた恐竜もいたかもしれません。 今県内では大山町有峰や各所で足跡化石が見つかり始め、1億2〜3千万年前の富山ではいろいろな種類の恐竜たちが活発に生活していたことがわかってきました。 しかし、富山では、恐竜の骨や歯はまだ見つかっていません。もし見つかりますと富山に生きていた恐竜の種類がはっきりし、福井や石川の恐竜と種類を比較することもできます。また、これまでに見つかった足跡を残していった恐竜を見つけだすことができるかもしれません。このように骨や歯の化石が一つ見つかると、富山の恐竜の姿をはっきりさせるための新たな手がかりが生まれます。骨や歯が一日でも早く見つかることを願って、私は今調査を進めています。
恐竜足跡化石群 富山県恐竜足跡化石調査報告書,1997より
(後藤道治)
1998.04.01
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