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今月の話題:No.51
みなさんは、「十字石」という鉱物をご存知ですか?
富山市科学文化センター、自然史展示室に「宇奈月の十字石片岩」が展示してありますが、その中に十字石が斑点状に浮き上って見られます。
「宇奈月の十字石片岩」は、1948年(昭和23年)、石岡孝吉博士によって初めて学会に報告されました。そして、1965年(昭和40年)には富山県の天然記念物に指定され、現在、その採取は禁止されています。十字石は宇奈月や、福島県阿武隈山地以外ではあまり知られておらず、日本ではめずらしい鉱物です。また、「十字石」の名の示すように、よく、それが十字の形をしていることで有名です。これは、"双晶"といって、同じ鉱物が、向きを変えて結晶生長したことによってできる形なのです。今度富山市科学文化センターへご来館の折は、十字形をしたものを捜してみて下さい。
十字石という鉱物は、いつも変成岩の中に見られます。最近の研究によれば、数千気圧というかなり高い圧力のもとでできる鉱物であることがわかっています。
宇奈月十字石片岩は、もともと海にたい積したたい積岩が強い圧力をうけてできた変成岩です。もともと化石があったとしても、強い圧力でこわれてしまっただろうとだれもが考えていました。ですから海にたい積したときの時代については、よくわかっていなかったのですが、だれも、この岩石の中から化石を捜そうと考えた人はいなかったのです。
ところが、この石から見事、コケムシと有孔虫の化石を見つけた人がいたのです。その人は、金沢大学の広井美邦博士です。1978年(昭和53年)の学会でこのことが発表されると、会場のだれもが「ア!」と息をのんだのです。
広井博士の発見で、宇奈月の十字石片岩は、もともとほぼ3億年前の海でできたらしいことがわかったのです。
発想の転換がすばらしい結果を招いたといえるでしょう。
「宇奈月の十字石片岩」の表面。不完全十字形がいくつか見られる。 |
発行:昭和57年6月1日