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今月の話題:No.278
現在では身近かにある火といえば、ガス台や石油ストーブの火・タバコを吸う人のライターの火などを思い浮かべます。そこではほとんどワンタッチで、苦もなく火を起こせます。最近ではマッチで火を起こすことも少なくなってきました。
そのマッチも一般的に使われるようになったのは、今から130年あまり前、明治時代に入っていわゆる「文明開化」で国産のマッチが普及するようになってからなのです。それまでは、ほとんどが今回のテーマである「火打ち石」によって火を起こしていました。
縄文時代に行われていた木をこすって火をつくる方法を体験した人もいることでしょう。
130年あまり経って、今火打ち石による火起こしの名残りはほとんどなくなって、それについて知っている人はほとんどいない状態になっています。江戸時代の火起こし「火打ち石」について説明しましょう。
火打ち石で火を起こすには、「火打ち金」「火打ち石」「火口(ほくち)」が必要です。「火打ち金」は、焼き入れした鋼を用います。関東では初め鎌を使っていたらしく、「火打鎌」と呼ばれていました。鋼は多くの炭素を含んでいて、火花がでやすいのです。実際の火花は、この炭素を含んだ鋼が燃えているのです。線香花火で飛び散る火花も同じように鉄が燃えています。当時は、様々な形や成分(焼き入れ具合)の火打ち金のブランドが売られていて、火の着きやすさに違いがあったということです。
「火打ち石」は、水晶(石英)やチャート・メノウなどの珪酸(SiO2)質の石です。ヨーロッパでは、イギリスやフランスなどで今から6,500万〜7,000年前の海で形成された石灰岩(チョーク)中にある「フリント」といわれる珪酸質の石が使われていました。これらの石は、焼き入れした鋼(火打ち金)より少し硬く、鋼を削り取ることができます。削り取られた鋼の小片が燃えて火花となって飛び散る訳です。
火花を受けて燃え出させるものを「火口(ほくち)」といいます。火口は火の着きやすいものでなければいけませんが、当時はガマといわれる植物の穂に墨汁を染み込ませ、乾燥したものがよく用いられていました。また、火口に使われたということで「ホクチアザミ」「オヤマボクチ」「ホクチタケ」などのように、植物の名前に「ホクチ」のついたものもあります。
有名な童話の「カチカチ山」で、薪を背負った狸の後ろでウサギが「カチカチ」と音を出して薪に火を着けたというのも、火打ち石でした。 火打ち石は実際に火を起こす以外に、儀式などにも使われました。また家族が旅に出るような時は、旅先での安全を願って図のように出ていく人の背中で「カチ・カチ・カチ」とやったということです。
伊勢公一商店:「火打ち石のしおり」より
富山市科学文化センターでは、7月17日(火)から9月16日(日)まで特別展「水晶の世界」を開催します。そこでは、火打ち石のコーナーをつくって、江戸時代の火起こしの体験ができるようにする予定です。
あなた自身の手で、火打ち石による火起こしを体験してみませんか?■
参考にした文献
小口正七:火をつくる−発火の変遷− 裳華房
伊勢公一商店:火打ち石のしおり
発行:平成13年5月