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今月の話題:No.281
カイコのマユから絹糸が採れるのはよくご存知の通りですね。絹織物の柔らかな光沢や軽く暖かい肌触りの良さは絹ならではのものです。
絹糸が採れるのはなにも飼育されているカイコばかりではありません。野外に生息しているガの仲間のマユからも絹糸が採れるものがいます。なかでも、ヤママユはそのマユからカイコの絹糸よりも太く丈夫で淡黄緑色をした光沢の強い絹糸が採れ、珍重されています。
ヤママユは、はねを広げるとその端から端まで15cmくらいのたいへん大きな蛾で、富山県でも呉羽山など丘陵地のコナラ林でよく見られます。時には、夜間、科学文化センターのある城南公園のような街中の公園の街灯にも飛んで来ることがあります。
図1.ヤママユ成虫とマユ
このヤママユを、長野県の穂高町有明地方では江戸時代から飼育しその絹糸を特産品としてきました。近年他県でも飼育を始める所が増え、富山県でも、現在八尾町で4戸の農家が飼育をし、糸の生産をしています。また、立山町でも飼育をしている方がおられるそうです。
カイコは屋内で人間に飼育され、野外で天然には存在しないので「家蚕(かさん)」と呼ばれ、ヤママユは天然に野外で生存し「天蚕(てんさん)」と呼ばれます。
ヤママユの約7gのマユ1個から600mほどの生糸が採れ、1000個のマユから300gほどの生糸が得られるそうです。
カイコでは約2gのマユ1個から1300mほどの生糸が採れ、1000個のマユから400gほどの生糸が得られるそうですから、ヤママユの方が少々効率が悪いようです。
ヤママユの飼育は、カイコのようには人工飼育の歴史が長くありません。また一年一回の発生であり(カイコは2、3回)、また、幼虫期間の初期は屋内飼育もできるようになってきていますが、まだカイコのようには幼虫全期間を屋内飼育できるようにはなっていないので、効率の良い多数飼育はなかなかたいへんなようです。
ヤママユは、コナラやクヌギなどの木の枝に産み付けられた直径3mm弱の卵で越冬します。卵の色は本来白色ですがよごれて灰色に見えます。
4月下旬から5月上旬になると、卵から幼虫が孵化してきます。黄色の体長6mmくらいの小さな毛虫です。
図2.ヤママユの幼虫と卵
幼虫は、コナラ、クヌギなどの葉を食べて大きくなっていきます。4回脱皮し5令(終令)幼虫になると、体長7〜8cm、体重20gほどの白色ストライプのある鮮やかな緑色をした、まばらに毛が生える大人の親指ほどの太さの大きなイモムシになります。この幼虫はたいへん葉に似ていて、小枝につかまり葉の間でじっとしていると葉にまぎれてなかなか見つかりません。
幼虫は、7月上旬に緑色のマユを作りその中でサナギになります。マユは5×2.5cmほどの長楕円形で、葉を土台にしてマユをつくります。サナギの期間は一ヶ月から一ヶ月半ほどで、8、9月に羽化してきます。
成虫は、5日ほどの命ですが、その間に交尾・産卵します。羽化や交尾・産卵は夜間に行われることが多いようです。200粒ほどの卵をコナラなどの枝に産み付けます。
冬に、コナラなどの雑木林に行くと、葉を落とした枝にヤママユの羽化してしまったマユがぶら下がっているのがよく見つかります。その近くの枝を探してみると、たいていヤママユの卵が見つかります。
たくさん飼うのはたいへんですが、数頭ならさほどたいへんではありません。一度飼ってみませんか。■
発行:平成13年8月