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今月の話題:No.282
コケ植物のなかには、わき水の中にだけ生える種類があります。富山県西部の川の水中でみられるカワゴケがそうです。カワゴケの体は細長くて30cm以上もの長さになり、かたまって生えている様子は水草のようです。
富山県で見つかっているのは、庄川流域の平野部のわき水の流れる川です。
カワゴケに似て少し黒色をおびたクロカワゴケも、同じくわき水の流れに生えるコケ植物です。クロカワゴケは、黒部川扇状地のわき水の流れる川や小川で見つかっています。
カワゴケやクロカワゴケが生える川の多くは、わき水が源です。そのような川には、流れている間にもわき水がその周りの地域から流れこみ、川の床面や側面からもわき出ています。わき水の水温は一年を通して安定しており、その場所の年平均気温と同じくらいです。カワゴケやクロカワゴケが生えている場所の水温を測ったところ約13〜19℃で、温度差の少ないおだやかな環境で生きていることがわかりました。
カワゴケやクロカワゴケはわき水なしには生きていけませんが、わき水さえあればどこでも生えるというわけでもありません。わき水の他に、着生するための石やくぼみ、安定した水位、ほどよい日当たりや水の流れる速さなどの条件が必要です。
現在、多くの川は人間にとって都合の良いコンクリート製の川に変えられました。川の床面も側面もコンクリート製になると、わき水はどこからもしみ出ることができなくなります。また、コケ植物がとりつくためのすき間や小さなくぼみがなくなり、水の流れも速くなります。せっかくわき水があっても、このような川からはカワゴケやクロカワゴケは消え、絶滅の心配がされています。
富山でも残っているのは、昔ながらの自然に近い川や自然に近い川を目指した工事がされた川です。平野部の住宅地を流れる川で、カワゴケやクロカワゴケが残っているのは貴重なことと思います。他に、絶滅のおそれのある水辺のコケ植物で富山県内でも見つかっている種類に、イチョウウキゴケ、ウキゴケ、ジョウレンホウオウゴケがあります。
日本の絶滅のおそれのある生物を、環境庁(現在の環境省)がリストにして、赤い表紙のレッドデータブックとよばれる本にまとめています。コケ植物は「改訂・日本の絶滅のおそれのある野生生物―レッドデータブック―9 植物・(維管束植物以外)」(2000年発行)にふくまれます。日本にコケ植物は約1,600種あり、そのうちの180種が絶滅のおそれがあると推定されています。コケ植物は体が小さい種が多いので、全国的な生育の状況がよくわかっていない種もあります。この本にはコケ植物の他に、藻類や地衣類、菌類(キノコをふくみます)が入っています。あまり注目をあびない生き物たちにも、絶滅のおそれがある種が多くいます。減っている生き物については、その原因や全国的な状況をとくに気にかけなくてはいけないと思います。
発行:平成13年9月