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竹の境界線

今月の話題:No.291

竹の秋

 タケは「めったに花がさかない」「節がたくさんある」「木なのか草なのか決めにくい」など、何かと話題の多い植物ですが、葉が黄色くなって落葉するじきも大変かわっています。なんと5月から6月に黄葉して落葉するのです。このじきの木は、葉の緑色がだんだん濃くなっていくのが普通ですが、竹やぶだけは黄色く色づいてどんどん葉が落ちていくのですから、たいへん奇妙に見えます。遠くから山をながめると竹やぶのある場所がよく分かります。この時、タケには何がおこっているのでしょうか。

 富山県に、もっとも普通にはえている、モウソウチクというタケでお話しましょう。 

葉のついている枝を観察

 黄色く色づいたモウソウチクの枝を見ると、一つの小枝には、葉が3〜4枚ずつついていますが、かれているのはその中でも一番下(根っこに近いほう)の葉です。もう何枚か落ちてしまって、枝先に1〜2枚のこっているだけのこともあります。かれた葉を手で引っぱると、いとも簡単にはずれます。

 枝の別の場所からは、何やら小さな葉がついた小枝がのびだしています。新芽です。モウソウチクもほかの木とおなじように、このじきに新芽をだしているのです。これから夏にむかって日ざしが強くなっていきますから、新芽をだすには今がもっともよい季節です。

新しい葉は、これから一ヶ月ぐらいかけて一人前の大きさになっていきます。その間に、きょねんの古い葉がどんどん落ちていくので、タケ全体がすかすかの竹ぼうきのようになります。新芽が太陽の光をたくさんあびることができるように、タケは古い葉を先に落とすと考えられます。

常緑樹じょうりょくじゅ

植物の葉の寿命は、半年ぐらいのものや1年のもの、2年、3年のものなど種類によってさまざまです。1年以内に葉が落ちてしまう木は、葉のまったくないじきがあるので「落葉樹」と呼ばれます。これにたいして、1年以上緑の葉をつけている木は、いつも緑色に見えるので「常緑樹」と呼ばれています。

モウソウチクの葉の寿命は、さきほど観察したようにだいたい1年ですから、「落葉樹」と「常緑樹」の境目の植物といえそうです。

竹の秋は竹の春

タケが黄葉して落葉するタイミングが、ちょうどタケノコが大きくなった後なので、まるでこどもを育てる大仕事をした親の竹が、つかれて枯れていくように見えます。この様子を「竹の秋」と呼んで、5〜6月の季節を表す言葉として使われることもあります。しかし、ほんとうは、新芽をいっしょうけんめいに伸ばしているわけですから、タケにとっては春なのです。

モウソウチクの葉
図のせつめい:
モウソウチクの葉は、5月になると、(1)、(2)、(3)の順に葉が落ちていきます。
同時に、別の場所から新しい枝と葉がゆっくりのびてきます。

文:おおたみちひと
発行:平成14年6月


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