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今月の話題:No.293

ジガバチ

 夏のさかりも過ぎ、秋の気配がだんだん濃くなってきた昼下がり、荒地を歩いていると、ハチがガの幼虫をくわえて引っ張っているところに出会いました。

 ハチはガの幼虫にまたがってアゴと前足でかかえて運んでいます。このハチの後をつけていくと、やがてハチは幼虫をそばに置いて、巣の入り口を開け始めました。つめておいた砂や小石を取りのぞき、巣を開けるとハチは一度中に入り、出てくるとかたわらに置いたガの幼虫をアゴでくわえて引き入れました。少しして出てきたハチは小石や砂で入り口を閉じてどこかへ飛んでいきました。

図.ガの幼虫を運ぶジガバチ
図.ガの幼虫を運ぶジガバチ

 このハチは、ジガバチといいます。体は細長く全体に黒色ですが、腹部の細長くなっている部分が赤くなっています。ジガバチは土にあな(坑)をほり、ガの幼虫を狩って自分の幼虫のエサにするカリバチの一種です。

 ジガバチは、まず気にい入った場所を探し巣穴をほります。巣穴をほる場所は、河原や荒地の草がまばらにしか生えていないところです。巣穴はまっすぐにほりこまれ、その奥はななめから水平にほられ、一番奥が大きく広げられています。

図.ジガバチの巣
図.ジガバチの巣

巣をほり終わると、自分の幼虫のエサとするガの幼虫を狩りに出かけますが、その前にちゃんと巣の入口を小石や砂でかくしてから出かけます。獲物を見つけると、腹の先の針でさして麻痺させ巣へ運びます。獲物が大きく幼虫のエサとしてじゅうぶんならば狩りは一回で終わり、小さければ数回狩りをします。

ジガバチの親はガの幼虫の体の表面に卵を産みつけます。後は巣をきっちりと閉じるだけです。まず小石を巣の中ほどに置き、その上に小石や砂をどんどんいれ、ジージーと音をたて頭やアゴでしっかり押し固めれば母親バチの仕事は終わりです。

巣をほる時、またうめる時に、このハチはジージーとハネをふるわせて音をたてます。昔の人はこのハネの音を「ジガジガ=似我似我(我に似よ)」と聞き、ハチが穴に引き入れた幼虫に「我に似よ」と言っているのだと考えました。ガの幼虫を入れたはずなのにハチが出てくるので不思議に思い、そんなことを考えたのでしょう。

土の中の巣で、エサの上に産みつけられた卵はすぐに孵化します。幼虫はエサの体液をすって成長し まゆ を作ってその中で冬をこし、春になって さなぎ になります。そして成虫となって出てきます。

文:根来 尚
発行:平成14年8月1日


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