NO.223
10月の終わりになると、常願寺川や早月川、黒部川などの川原に生えている高さ3mほどの木に、直径6mmぐらいの真っ赤な実がたくさん実ります。これがアキグミの実。ひとつぶつまんで口に入れると、独特の渋(シブ)みと甘い味がします。この実をたくさん摘み取って、ジャムや果実酒を作ることができます。また5月にはたくさんの薄黄色の花を咲かせます。じつは富山県は、アキグミが日本で一番多い県なのです。
アキグミは、黒部川、早月川、常願寺川、神通川、庄川に生えています。しかし、ゆるやかに流れる小矢部川には生えていません。アキグミは流れの急な川に生えるのです。常願寺川や早月川などの川原をみると、丸い石と砂が厚くたまっていて、とても栄養分などはなさそう。草がまばらに生える程度の環境で、なぜアキグミは大きくなれるのでしょうか。
アキグミの根を掘り起こすと、根の表面に白っぽいつぶつぶがついています。これは根粒(コンリュウ)というもの。何とこれが空気中の窒素から植物の栄養分(アミノ酸)をつくりだしてくれるのです。さらに、アキグミの葉や枝、実、花は、白っぽい鱗片(リンペン)にしっかりとおおわれているため、体の水分が蒸発しにくく、少々の乾燥にはびくともしません。栄養不足と乾燥の問題をクリヤーしたら、川原はこわくない。太陽の光を思う存分浴びて生長できるのです。
しかし、川が急流だと時々起こる大水で、流される心配があります。アキグミの林が流された後の何も生えていない場所に、アキグミ林がよみがえるまでにどのくらいの年数がかかるのかを調べてみました。1年目に川原の草といっしょに芽生え、4〜5年で大人の背丈ほどの林になって実をつけはじめます。そして、10年で高さ4mの林になります。
もし、川に大水が出なかったらどうなるでしょうか。20〜30年も林の状態が続くと、たまった落ち葉や枯れ草から土ができて、ほかの樹木が生長するようになります。すると、光不足に弱いアキグミはその木の日陰になって枯れてしまいます。ところが富山の川は、時々大水を流して川原を削り取り、時には洪水を起こして一気に流し去ることさえあります。新しくできた石と砂の川原には、またアキグミが芽生え始めるのです。アキグミは、洪水になるのを密かに待っているのかも知れません。
(太田道人)
1996.10.01