No.240
3月になって、冬の夜空を飾ったオリオン座などがやや西に傾くと、代わって、東の空からは、しし座などの春を代表する星座が昇ってきます。春の星座にはしし座のほかに、北斗七星があるおおぐま座、うみへび座、おとめ座などが見られ、これらの星座の中に見られる天体を紹介します。
春の先駆けとして、まず昇ってくるのは"かに座"です。この星座には明るい星はなく、見つけにくい星座ですが、その中心には"プレセペ星団"と呼ばれている散開星団があります。散開星団とは、数十から数百個ほどの星がまばらに集まっているものです。この星団は空の暗いところですと、肉眼ではなんとなくぼやっとした淡い雲のように見え、双眼鏡では、暗い星が集まっているようすがわかるでしょう。
北東の空にはひしゃくの形をした北斗七星が空高くかかっています。このひしゃくの柄の2番目の星はミザールという名で、すぐそばにはアルコルという星があります。この2つの星は、目の良い人には肉眼でも分かれて見えるので、昔、アラビアでは兵士の視力検査に使われていたそうです。また、ミザールを望遠鏡でのぞくと、もう一つの星がそばにあるのがわかります。このような星は2重星といわれ、宇宙には、このような星は他にも数多く知られています。
北斗七星の近くには、暗くて小さな雲のように見える天体が数多くあります。例えば、M81,M82、M101などで、これらの天体の正体は、星が数百億個から、数千億個も集まった大集団の姿なのです。
これらの天体は、私たちの太陽系が属する銀河系と同じような星の集まりで、"銀河"と呼ばれています。銀河系の大きさは約10万光年と言われていますが(1光年とは光が1年かかって進む距離で、約10兆kmにあたる)、これらの銀河はその外、もっと離れたところにあります。この中でも比較的近いと言われているM81でも1200万光年ぐらい、遠いものだと数億光年から数十億光年もの彼方にあると言われています。また、その光は数億年から数十億年も昔に、その天体を発したもので、今見ている姿は、はるか昔の姿を見ていることになります。
春の夜空には、このような銀河が他にも見られ、しし座とおとめ座の中間付近にたくさん見られます。その代表的なものとしてはM51、M64、M66などがあります。
いずれも、8等星から10等星の明るさなので、空の暗いところで、望遠鏡を使って見ると、淡い渦巻きのような形で、ぼうっと光る姿がわかると思います。特に、M51は子持ち銀河と呼ばれていて、すぐ近くにもうひとつのお供の銀河を見ることができます。
春は、かすみがかかった夜空が多いのですが、そこにはさまざまな星や天体があります。特に銀河は私たちから見えるもっとも遠い天体です。それらを見ながら、宇宙の大きさや時間の広がりなどを感じてください。
春のプラネタリウム「春の星座とヘルクレス物語」では、これらの春の天体を紹介しており、天文台でも、木・金・土の夜間観測会の時に観察することが出来ます。
(布村 克志)
1998.03.01