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地球環境と立山の自然

平成22年4月29日から5月24日まで展示した

企画展「地球環境と立山の自然」で展示したパネルの内容です。

(主催 富山市科学博物館  共催 立山カルデラ砂防博物館)


 「地球環境と立山の自然」の開催にあたり
 企画展の趣意文パネルです。
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 まとめ
 この企画展の内容のまとめです。
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 謝辞
 立山での環境調査に関わる研究補助金、許可や協力をいただいた機関、研究者などへの謝辞です。
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 立山での調査地点と標高
 立山で行った環境調査、気象調査の調査地点や研究者の分担です。
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1.立山の気象を調べる

 立山駅から立山ケーブルで標高970mの美女平駅に着くと、空気は少しひんやりとしています。ここから高原バスに乗って標高2450mの室堂平に向かうと、気温も気圧もどんどん下がります。立山で大気や物質の流れを考えるためには風向・風速や気温、湿度、日射量などの気象データが必要となりますが、どこか1 カ所の観測データから全ての標高の気象を考えることはできません。そこで、それぞれの標高に応じて気象観測をする必要があります。

 立山の気象観測は室堂平(立山カルデラ砂防博物館)や浄土山山頂(標高2839m、富山大学・九州大学)で通年観測が行われていますが、酸性雨や霧の観測にあわせて、美女平(標高970m)、弘法平(標高1630m)、追分(標高1800m)にも気象測器を設置し、夏から秋にかけて観測を行いました。

 標高が高くなると気温は低くなる
 立山での気象観測データから計算した気温減率です。観測地点間によって気温減率が異なることが分かりました。
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 立山の夜の湿度は100%になることが多い
 立山での気象観測データによる各観測地点の湿度の日変化の紹介です。
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 夜に霧の発生や結露が起き、日中は消える
 葉面濡れセンサーでの観測による結露や霧の発生の状況の紹介です。
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 昼は平野から立山に、夜は立山から平野に風がふく(山谷風)
 立山では、夏から秋にかけて、日中は富山平野から立山に向けて、夜間は立山から平野に向けて風が吹く様子を紹介します。
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 室堂平を覆う大気は美女平の大気とは違うことが多い
 立山では雄大な雲海を見ることができます。この雲海の上側と下側とでは大気中の汚染物質の起源が異なります。
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 標高が高くなるほど降水量は増えるが、室堂平は特別に多いようだ
 酸性雨の観測試料から計算した立山の観測点の標高に対する降水量の変化です。
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 稜線の気温の一年
 標高2836mの浄土山山頂での年間の気温の変化と、平野の富山市での気温変化との比較です。
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 トピックス「台風通過時の気象」
 2009年10月8日に富山県を直撃した台風18号通過時の立山(美女平)と富山市との風などの比較です。
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2.立山の大気環境から考える

 立山の大気は平野と比べるとたいへんきれいです。立山で硫黄酸化物や窒素酸化物などの大気汚染物質の排出源として、立山有料道路を走る高原バスや観光バス、山小屋や工事・調査用などの一部の通行許可車両、宿泊施設での自家発電機や燃料使用などがあります。また、自然起源の大気汚染物質として、地獄谷の噴気に含まれる硫化水素などの気体成分があります。立山で排出される大気汚染物質は排出量がそれほど大きくないため、道路や施設から少し離れると、その影響はほとんどわからなくなります。

 これに対して、晴れた日の日中に富山平野から山に向かって吹く風は、富山平野などで発生した汚染物質や移動中に生成する光化学オキシダントなどの大気汚染物質を運んでくるようです。さらに、室堂などの高山域では気象状況によって遠くアジア大陸起源の汚染物質を含んだ大気も通過することがあります。

 富山市内の大気中の窒素酸化物、硫黄酸化物の濃度は低下している
 立山の大気汚染の程度を知るための対照データとして富山市内での大気汚染データを紹介します。
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 立山の大気は街の中と比べるとかなりきれい
 立山の美女平(標高970m)で行った窒素酸化物や硫黄酸化物などの大気汚染物質の大気中濃度を紹介します。
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 日中は平野起源の窒素酸化物もやってくる
 日中、平野から立山に吹き込む風によって運ばれてくる大気汚染物質を紹介します。
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 美女平のオゾン濃度は街の中よりも高い
 光化学オキシダントの主成分であるオゾンの大気中濃度を富山市市街地のデータと比較しました。
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 ブナ平のブナの衰退はオゾンが関係する
 立山のブナ平やブナ坂に生育するブナは以前から衰退が見られますが、これにオゾンが関係していることが分かってきました。
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 立山では秋にも黄砂がやってくる
 黄砂は、平野では主に春にだけ見られますが、立山では秋にも黄砂が見られます。その様子を紹介します。
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3.立山の雨と霧(雲)から中緯度地域上空の大気環境を考える

 立山では毎日のように霧が出ます。晴れた日の午後に標高の低いところからわき上がるように出てくる霧、ある標高の所だけ層状にかかる霧(雲海による霧など)、低気圧や前線の通過時などの悪天候のときにかかる霧などがあります。悪天候の時には霧の中で雨や雪が降ることもよく経験します。霧と雲は同じもので、地表付近にできた雲を霧と呼んでいます。霧の中にも雨と同様に酸性物質が含まれますが、その濃度は雨よりも高くなります。アジア大陸から風が吹いてくる時には、室堂平で強い酸性の霧が出ることもあります。

 雨や雪は、低気圧や前線などに伴う雲の上空で作られ、雲の中を落下し、さらに、雲の下の大気中を落下して地上に落ちてきます。雨や雪は雲の中での生成・成長の過程や雲の中、雲の下の大気中を落下する際に様々な物質を集めます。別の見方をすれば、雨は大気中の汚れを取り去り、地上に運ぶ役割もしています。その結果起きてくるのが酸性雨です。

 立山の酸性雨の強さは平野と同程度で、雨や雪の中の酸性雨原因成分の濃度も平野と比べて低く、問題はなさそうです。さらに、雨の中に溶けている成分の濃度は霧の中の濃度の数分の1以下しかなく、立山の雨は、植物の葉の表面に霧によって付着した物質を洗い流す役目もしているようです。

 立山の酸性雨は標高が高くなると弱まる場合と強まる場合とがある
 立山有料道路沿いの7〜9カ所で採取した降水試料から解析した、標高に対する酸性雨の変化の様子です。
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 酸性雨の原因成分の硝酸イオンと非海塩性硫酸イオンとでは、標高に対する濃度の変化が違う
 酸性雨の原因となる非海塩性硫酸イオン濃度と硝酸イオン濃度の標高に対する変化の違いを紹介します。
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 酸性雨を弱める成分は標高が高くなると濃度が下がる
 降水のpHは、大まかには、酸性を強める非海塩性硫酸イオン・硝酸イオンの合計値と、中和成分のアンモニウムイオン・非海塩性カルシウムイオンの合計値とのバランスによって決まります。この中和成分の標高に対する濃度変化を紹介します。
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 霧(雲)水の非海塩性硫酸イオンと硝酸イオンの濃度は雨の中の濃度と比べてかなり高い
 同一地点で霧水と雨水を採取すると、霧水に溶けているイオン成分の濃度は雨に溶けている成分と比べて数倍から時には数十倍も濃度が高くなります。この様子を紹介します。
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 室堂平で強い酸性の霧がかかるとき、アジア大陸から大気が来ていることが多い
 室堂平では国外から越境輸送されてくる汚染物質の影響を受けることが多く、特に、アジアの工業地帯上空から大気がやってきた時、強い酸性の霧が出ることがあります。
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 立山での酸性雨の解明は、富山平野の上空で起きている酸性雨形成を考えるヒントになる
 立山と富山市市街地での酸性雨の比較から、富山市上空で起きている酸性雨形成の解明ができる可能性を紹介します。
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 雨や霧の硝酸寄与比の値が大きいときは国内起源、小さい時はアジア大陸起源
 酸性雨の原因成分がどこからやってきたのかを知る方法として、硝酸イオンと非海塩性硫酸イオンの構成比が役立ちます。特にアジア大陸起源の酸性物質では硝酸イオンの構成比が小さくなることを紹介します。
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 霧が採取地点付近の高度の大気・水情報を持つとすると、雨は上空の情報を持っている
 同じ場所で採取した霧と雨とを比較すると、雨は霧と比べてずっと上空で作られるため、持っている汚染源に関する情報も霧の場合とは異なります。
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 立山の酸性雨・霧の観測から上空の大気環境の変化が読み取れるかもしれない
 立山での雨や霧の観測はたいへんな作業も伴いますが、継続して観測を行い、そのデータを解析することで、地球の中緯度地域上空の大気環境の変化とそれに影響される形で変化する立山の酸性雨や霧について見えてくる可能性があります。これが今後の研究の方向です。
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4.立山の積雪から考える

 最近は冬の気温が高めとなり、平野では厳冬期でも積雪がほとんど見られない年が多くなりました。これに対して、立山では、標高が高いために気温が低く、立山黒部アルペンルートが開通する4月中旬頃でも、弥陀ヶ原では4m〜5m程度、室堂平では6m〜9m程度の積雪が見られます。室堂平の雪解けが始まるのは4月中旬から下旬頃なので、立山黒部アルペンルートの開通直後に雪の調査をすると、冬の間の雪質を保持したままの雪試料を得ることができます。立山では冬の間の環境調査がほとんどできませんが、積雪を使うことで冬の環境を考えることができます。

 室堂平の積雪の深さは6m〜9mになる
 立山の室堂平で立山黒部アルペンルート開通直後に富山大学が中心となって行われている積雪調査による積雪の深さの変化を紹介します。
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 積雪の中の酸性雨成分濃度の推移
 室堂平で行われている積雪調査では酸性雨(雪)の調査も行われています。その結果から見る冬の酸性雨の変化を紹介します。
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 積雪のしま模様から、黄砂や大気汚染物質の輸送が見える
 積雪層を詳細に見ると、黄砂や煤状の物質で汚れた雪の層が所々に見られます。これらの層と酸性雨原因成分の濃度を対比させるとよく一致します。この様子を紹介します。
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 黄砂は表面に酸性雨原因物質をくっつけて運んでくるようだ
 黄砂による汚れ層には黄砂粒子が多く入っています。黄砂は酸性雨の中和成分を多く含んでいますが、この性質のため、黄砂粒子そのものの表面には酸性雨の原因成分も多く捕捉しているようです。
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 湖のようなにぎわいの融雪期の積雪
 室堂平の雪解けは7月上旬頃まで続きますが、その途中の過程で、積雪一面が赤く色づくことがあります。これは、積雪の中にだけ繁殖する藻類(Snow Algae)によるものです。この様子を紹介します。
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5.立山の谷水の水質から考える

 立山有料道路が作られている弥陀ヶ原台地は立山火山から噴出した溶結凝灰岩などからできており、台地上には小さな谷がいくつも刻まれています。これらの谷が集まって称名渓谷の深い谷を作ります。また、谷によっては常願寺川に直接合流するものもあります。

 高山帯を除いて、立山の谷の集水域の多くは森林となっており、降ってきた雨は植物の表面に付いた霧などの成分を洗い流し、地下に浸透し、やがて、谷水として湧き出してきます。

 弥陀ヶ原台地では土壌が薄くて雨水の中和が充分に進まないと予想されることや、火山性の土壌では内部で生成する硫酸によって土壌内の中和物質を減らしてしまう場合もあることから、標高1600m〜2400mの亜高山帯から高山帯にかけての谷について、植物に付着する霧の影響や地質の影響を、谷水の水質から考えてみました。

 亜高山帯から高山帯にかけての谷水には弱酸性のものがある
 立山の谷の中には、酸性雨が中和されないで弱酸性の水が流れている谷もいくつか見られました。その状況を紹介します。
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 植物に付着した霧水などが谷水の水質に影響する
 立山の谷の水質は、降水そのものよりも、樹木の葉や幹を伝って地上に落ちる水の水質の影響を受けているようです。立山では霧がかかることが多く、葉の表面に付着した霧の影響が大きいことを紹介します。
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 雨水はすぐに流れ出してしまうのに、水量が安定している谷もある
 水位調査をした碁石谷(標高2100m程)は、いつも水量が安定していましたが、水位データを見ると、雨が降るとその水はすぐに流れ出してしまうようです。それにもかかわらず、晴れた日が続いて他の谷が水涸れしても、この谷だけ水量が安定している様子を紹介します。
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 称名川、湯川流域の谷水の水質は千差万別
 前述の谷が流入する称名川をはじめ、立山カルデラ内を流れる湯川など、常願寺川の支流の河川の上流部の水質の特徴を紹介します。
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6.私たちの生活が変える地球環境
(この企画展のバックグラウンドです)

 便利で快適な生活をするために必要なエネルギーの多くは石油や石炭、天然ガスなどのエネルギー資源を燃やすことで得られます。

 エネルギー資源の燃焼によって大気中には炭酸ガス(二酸化炭素)をはじめ、硫黄酸化物(二酸化硫黄)や窒素酸化物などの大気汚染物質が排出されます。炭酸ガスは地球温暖化の主要な原因物質です。硫黄酸化物は石油や石炭に含まれる硫黄分が燃えて生成します。窒素酸化物は主に1000℃以上の燃焼炉の中で空気中の窒素と酸素とが直接結びついて生成します。硫黄酸化物や窒素酸化物は除去対策を行わないと大気汚染が深刻化し、人の健康被害が発生します。また、大気中で硫黄酸化物は硫酸に、窒素酸化物は硝酸にかわり、大気の酸性化や雨・雪の酸性化を引き起こします。立山などの山岳域では酸性の霧(雲)もかかります。さらに、窒素酸化物と炭化水素とが大気中で太陽光による化学反応(光化学反応)の結果生成する光化学オキシダントなどの過酸化物も有害な大気汚染物質です。

 地球温暖化も大気汚染や酸性雨も、エネルギー資源を燃やすという同じ原因から生まれてくる環境問題です。

 世界のエネルギー消費量
 世界でどのくらいのエネルギーが消費されているのか、2000年と2004年の統計をもとに、地域別に紹介します。アジアのエネルギー消費が大きく伸びていることが分かります。
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 日本のエネルギー利用効率は世界の中でもトップクラス
 日本のGDP100万ドル当りのエネルギー消費量は世界の国々の中では少ない国の一つであることを紹介します。日本は低炭素社会の実現では、既に、世界のトップクラスになっていると言えます。
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 日本は大気環境の対策でも先進国
 日本は、化石燃料の燃焼に伴う窒素酸化物や硫黄酸化物の排出量に関しても世界の国の中ではトップクラスで少ない国で、大気汚染の防止に関しても進んでいることを紹介します。窒素酸化物や硫黄酸化物は酸性雨の原因物質でもあるので、日本は酸性雨の防止対策でも世界のトップクラスと言えます。
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 富山の酸性雨が強まる理由はまだよくわからない
 富山県内では富山県、富山市、高岡市が酸性雨の行政監視を行っています。その結果から見える最近の傾向を紹介します。
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 冬型気圧配置の時にアジア大陸から酸性雨の成分が運ばれてくる
 冬型気圧配置の時にアジア大陸から酸性物質が運ばれてきます。また、国内起源の酸性物質も、当然、酸性雨に関わります。両者の寄与比を石川県羽咋市-富山市-長野県大町市まで見積もった結果を紹介します。
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 冬以外の季節でもアジア大陸から汚染大気がやってくることがある
 2007年5月8日〜9日にかけて全国的に光化学オキシダントの濃度が高まり、オキシダント注意報が発令されました。この際の汚染大気はアジア大陸の工業地帯からやってきたことが分かりました。その時の富山市での様子を紹介します。
 (PDF版)

富山市科学博物館
最終更新 2010-06-10
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