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2.こどもが見つからない

 アキグミの林を歩いていて、ちょっと不思議なことに気がつきました。それぞれの木がだいたい等しい間隔で生えていることと、芽生えがまったく見あたらないことです。毎年親の木からは、地面に真っ赤になるほどたくさんの実が落ちます。落ちた実からは、春にたくさんの芽が出てきて、足の踏み場もないくらいになるのではと心配になるのですが、それが全然出ないのです。
 タネがおかしいのかなと思って発芽試験をしてみると、20%ぐらいですがちゃんと発芽します。(グラフの上から3番目の線)。初冬のアキグミ林内の石の上には、この実をたくさん食べたとみえる、鳥の赤いフンがたくさんついています(図-7)。付近にはツグミという鳥をよく見かけます。さてはツグミに食べられてしまってタネが発芽しなくなっているのではと思い、このフンにふくまれていたタネをまいてみました(グラフの上から2番目の線)。すると予想とは逆にたいへんよく発芽します。これは果肉をとりのぞいたものの発芽率(グラフのいちばん上の線)に近いことがわかりました。赤い果肉がついていると発芽が妨げられることがわかります。つまり、木から落ちただけの実からは、発芽しにくいということです。


図7




 しかしそれにしても、芽生えがなさすぎます。もう一つ別の可能性を考えてみます。オオバコやセイヨウタンポポなどの日当たりを好む植物のタネは、緑色の光のあるところでは発芽しないことがわかっています。緑色の光といえば、木の葉をとおりぬけてくる光です。ということは、木の陰になっているところでは、タネが発芽できないということです。もしかするとアキグミのタネもこれが原因で、林内芽生えが見あたらないのかも知れません。今後さらにくわしくしらべてみる必要があります。
 林の中では、タネを発芽させない。これは一見、子孫が育たず群落の将来が不安になりそうですが、親の木と芽生えとの間での競争をさけるためにには大切なことなのです。

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富山市科学博物館
最終更新 2008-03-25
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