海水面が上昇した証拠
入善沖の海底林 (第25回)



  
   
   水深20bの海底に根を張っていた埋没林の樹幹
   
 写真は、科学文化センターロビーに時々展示される入善沖の海底林(埋没林)の樹幹である。北陸スキンダイビングクラブのメンバーが発見したものだ。一九八〇年、入善沖の海面下二十bの海底から引き揚げられた古びた「切り株」にどんな意味があるのだろうか?

 重要なのは、深さ二十-四十bの海底で根を張った状態で発見されたことである。「根を張った状態」ということは、そこに木が生えていたことを意味する。海底から木が生えることはあり得ず、以前その場所が陸であったことを示している。これは、「陸地が沈んだ」か「海水面が上がった」かのどちらかである。昭和五年に海面下一-二bで発見された「魚津の埋没林」は、「陸地が沈んだ証拠」として国の天然記念物に指定されているが、最近は「海水面が上がったため」と分かってきた。

 入善沖の埋没林は、富山大・東京大・金沢大などの研究者によって「海水面が上がった」証拠とされ、陸の地中から見つかる埋没林と区別して「海底林」と呼ばれた。

 氷河時代には、世界中で氷河が広がった。氷河になった分、海水面は現在より数十b-百b低かったと言われる。大陸棚は、昔陸地であったというのだ。ならば、当然そこに森があったはずだが、それが見つからなかった。入善沖の海底林でそれを確認することができたのである。

 なぜ入善沖でそれが見つかったのだろうか?普通海中に没した樹木は、腐食したりフナクイムシなどに食べられ跡形もなくなってしまう。しかし、黒部から入善にかけての後背地には、黒部川扇状地が広がっている。扇状地をつくる洪水で地下に埋まった樹幹は、海面の上昇によって海底の下で保存された。近年の海岸や海底の浸食によって海底に顔を出したのであろう。入善沖の海底林はこうして日の目を見ることになったのである。(赤羽久忠 2000年5月13日掲載)




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