恐竜がいた大地に立つ
化石調査の魅力 (第29回)



  
   
   大山町で見つかった恐竜化石の大露頭
   
 昨年から県教委が主体となり、県内の手取層群調査が本格的に始まった。相次いで発見されている恐竜化石を活用するための基礎的調査である。北陸の恐竜化石のほとんどは「手取層群」というという地層から産している。

 この地層は恐竜時代の中ごろ(一億七千万年前から一億年前)にできた地層である。分布は福井・石川・岐阜・富山にまたがっており、隣県では様々な調査が進んでいるが、富山での研究は一歩遅れをとっていた。

 昨年の夏の盛り、私はこの調査に加わり大山町の山中へ出かけた。恐竜歯化石が発見された足跡化石の大露頭で、調査の打ち合わせが行われたのである。歯化石の発見者、大山町の藤田将人学芸員が一面に露出した足跡化石の説明をしていた。

 私自身この年の四月に富山に来たばかり。この大露頭を目の当たりにするのは初めてであった。その壮大さに、私はくまなく足跡化石をみてみたいという思いにかられた。しかし二十b四方にわたり露出しているがけのすべてを観察するには、どうしても化石が露出する斜面に立たなくてはならない。私は斜面に一歩を踏み出した。偶然にもそれは恐竜が残したくぼみの中であった。恐竜が踏みしめた大地を一億年の時を経て私が踏みしめる。まさに恐竜はその場所に立っていた。そして一億年後、私がそこに立ったのである。

 化石を直接手にした時、はるか昔の命のぬくもりを感じる。土の中に埋もれ、ほかの生物に出会うことなく眠り続けるはずだった化石が、なぜか私の手の上にある。そんな太古の生物との偶然の巡り合わせにも神秘的なものを感じる。この感動や神秘さが私を魅了してやまない。化石がもつ素晴らしさを人々伝えたいと思う。

 いつか皆さんが化石にひかれることがあれば、科学文化センターをぜひ訪ねていただきたい。(田中豊 2000年5月19日掲載)




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