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多様な植物 (第31回)



  
   
   多様な植物が生える宇奈月町・清水岳の花畑
   
 博物館で展示や教育を行うには、郷土の自然の特徴をつかんでおくことが必要になる。

 富山県の植生は実に多様だ。亜熱帯を除き、日本列島に存在するすべての植生が見られる。海浜には、ハマヒルガオやコウボウムギがあり、海に面した山の斜面には、タブノキやスダジイの照葉樹林がある。平地は雑草や水草、人里の植物、河川敷の植物などが生えている。

 丘陵地には、キノコの採れる雑木林、スギの植林、モウソウチク林など、人々の生活に密接にかかわってきた自然がある。もっと山手へ行けば、ミズナラやブナ、トチノキの大木が生い茂る自然林。そして高山は、背の高い木の全くない世界がある。

 標高差があることに加え、植物の生える環境をさらに多様にしているのが地形の複雑さ、土質の多様さ、雨の多さ、そして積雪の多さだ。特に多雪条件は、ユキツバキやヒメアオキなど雪国特有の植物をはぐくむ。

 こうした富山県の多様な環境をつぶさに歩き回ってきた植物学の先人たちが調べ上げた、県土の植物目録には、二千四百五十種類の植物が名を連ねる。この調査研究には、私も携わっており、現在二千六百種類を超える植物が記録されている。これは、本州中部地方の各県と比べてもトップレベルだ。

 さて、一見移動できないように見える植物も、長い時間の尺度で見ればダイナミックに移動している。地球の温暖化あるいは寒冷化の度に、植物は生育していた場所から追われ新たな好適環境にじわりと移動する。暖かい環境に生育する植物は、海岸付近の低地を連続的に北上したり南下したりできる一方、寒冷な環境で生育する植物は、山の高地に生えることから水平移動が限られ、登山と下山を繰り返すことになる。

 多様な富山県の植生も、こうした「旅」の植物がたまたま出会ってできているものなのだ。(太田道人 2000年5月22日掲載)




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