雪の布団に守られ越冬
ユキツバキ (第32回)



  
   
   宇奈月町・僧ヶ岳に咲くユキツバキ
   
 春になると、山のあちこちで、薄くなった残雪をバッと払いのけるようにして、ユキツバキがしなやかに起き上がる。鮮やかな朱色の花を咲かせると、林はぱっと明るくなる。枝は半年もの間、雪の下で堪え忍ぶ。富山県人のイメージにも重なる木である。

 富山の自然の特徴を語るには、ユキツバキがいい。雪がないと生きていけない植物だからだ。一つ問題を出そう。二百年の年輪を刻んだブナの林の中に、五十年の年輪を持つユキツバキがある。この林に長く住んできたのはどっち?ブナだと思う人が多いだろうが、実はその逆であることがよくあるのだ。ブナは年輪で年齢を測ることができるが、ユキツバキにはこの測り方が通用しない。ユキツバキは、株別れや枝分かれをして数を増やしていくからだ。いわゆるクローン繁殖植物なのである。

 クローン植物の場合、元の株から分かれてきた新しい株は、遺伝的には元の株と完全に同一である。見かけは二株でも、遺伝的にはあくまで一個体。年齢はどちらも同い歳ということが起こってしまうのだ。

 私がDNAを使って調べているところでは、時には二十b以上も離れて存在するクローンがあることが分かってきた。この状態になるまでには相当の時間がかかっているはずで、林の上層を覆うブナが芽生えるよりも先に、林の中に存在していた可能性が出てくるのである。

 ユキツバキのクローン繁殖を支える最も重要な環境条件は積雪。積雪が枝を地面に接しやすくし、発根の機会を増やしたのは言うまでもない。さらに、亜熱帯起源のユキツバキを日本の山地で越冬できるようにしているのも積雪なのである。空気をたくさん含んだ積雪は断熱効果に非常に優れている。寒さに弱いユキツバキは暖かい雪の布団に守られて冬を越させてもらっているわけだ。(太田道人 2000年5月23日掲載)




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