北ア周辺だけに群生
アキグミ (第33回)



  
   
   常願寺川の河原でグミつみを楽しむ人たち
   
 紅葉前線が平野部に到達するころ、常願寺川や黒部川などの川原のグミの木には、うっすらと紅色が差してくる。アキグミの実が熟したのだ。晴れた日には、グミを摘む人の姿が見られ、川と人と立山連峰をフレームに入れると、富山らしい自然の風景になる。

 富山市の城南野草サークル(会長・北代十三子さん)は、自然の恵みを加工して楽しんでいるグループである。アキグミを摘んで加工することもお手の物。グミ酒やジャム、シャーベットなど、ほど良い渋みを生かし食べ方を工夫する。

 アキグミは北半球の温帯に広く分布し、日本では北海道から九州までに見られる。しかし群生地は、富山県東部、新潟県西部、長野県北部と、北アルプスを取り囲むエリアに限られる。それは急しゅんな北アルプスが河川に巨大なれきを供給することと関係がある。巨れきは河川のこう配を急にし、扇状地を形成し、河川敷におびただしい量の砂れきをもたらす。この環境がアキグミの繁栄に好都合なのだ。

 アキグミの種子は、できて間もない砂れき地で発芽する。親の木の下や他の植物が生えているところでは芽を出せない。根には根粒菌を住まわせ、これが作る養分を吸い取って生長する。養分のない砂れき地でおう盛に生育し大量の果実を生産できるのもこのためだ。

 アキグミの林ができると、もうそこは荒れ地ではない。私が調べたところ、十年もすれば土壌が形成され、他の植物にとっても生えやすい環境になる。二十五年を過ぎると、アカマツなどにその座を奪われる。しかし、そこは暴れ川である。アキグミが悲鳴を上げる前に、水が全てを流し去り、新たな砂れき地をアキグミに提供する。しかし近年、このサイクルは崩れている。ここ二十数年、暴れ川は不気味に静かだ。山の崩壊を止めると、人の安全性は増すが、アキグミには滅亡の道しか残されていない。(太田道人 2000年5月24日掲載)




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