速度増す自然の変化
標本保存の重要性 (第34回)



  
   
   科学文化センターの植物標本庫
   
 三、四十年前には、湿地や用水路の水面を覆い尽くして、大いに嫌われていたオニバスやガガブタ、トチカガミなど十種余りの植物は、富山県内ではとうに絶滅してしまったか、最後の生育地で風前のともしびになっている。

 一方で、セイタカアワダチソウやヒメジョオンは、明治のはじめに北米から日本に持ち込まれた植物であるが、今では全国に広がり、富山でも河川敷や空き地の最優占種に居座っている。これらの変化は、自然が勝手に変化したわけではなく、すべて人間の影響であることに気づかなくてはならない。

 地域の博物館として自然をはっきりとつかみたいが、自然の変化は速く待ってはくれない。現在、普通に生えている植物が、三十年後にもそこにあるかどうかはだれも予測できまい。国内にない植物が海外から入り込んで、日本の風景を変えいくことだってあり得る。自然はほとんど変化していないように見えても、着実に進行しており、何十年か後でその変化の大きさに気づくものである。

 自然科学の記録は、写真と文字に加え標本も併せて残すことで完璧とする。標本まで残す意義は、そこに実在したというゆるぎのない事実とともに、写真や文字では絶対に表現できない立体構造とDNAの保存にある。実物があれば、大きさ、質、重量を知ることはもちろん、顕微鏡で微細構造を、解剖すれば内部構造までを知ることが出来る。今では、DNAを取り出してその生物の系統や由来までも推定できてしまう。

 私たちの住んでいる地域の自然をより深く理解していくために、現在の自然の標本を少しでも多く収集し、富山の自然の特徴を浮き彫りにしていかなければならない。地球がかつて経験したことのない速度で、人間が自然を変化させているこの時代は、自然の記録作業は決して手を抜いてはいけない仕事になっている。(太田道人 2000年5月25日掲載)




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