標本づくりの輪広がる
植物の調査隊 (第35回)



  
   
   植物の標本をつくる調査隊のメンバー
   
 1回きりの自然教室に参加して喜んでくれる人がいる一方で、さらに多くを学びたいという人が増えつつある。自然に親しみ、自然をよく知るには、自然の中にあるものや現象の名前を知り、形や状態を表現する言葉を多く知っている方がよい。それには経験を積んでいく必要がある。

 科学文化センターには「富山の自然調査隊」という植物学習講座がある。活動の趣旨はこうだ。「植物の名前を本気で覚えたい人に、全面的にお手伝いする。この活動で最も大切なのは植物の標本を作ること。なぜなら、形を詳しく見ないとその植物を確実に区別することができないし、形を表現する能力が育たないからだ」

 毎日、乾燥紙を取り替えて標本が乾くまでの一週間、同じ特徴を繰り返し目にすれば、だれでも名前を覚えられる。野外へ出るときは、植物を見るだけでなく、自然を見る目と心も養う。そして知識が自分の血や肉になったら、標本を科学文化センターに寄付してもらう。

 科学文化センターは学ぶ意欲ある人に「学びの場」「出会いの場」「成果を発揮できる場」を提供する。参加者は、知識と技術を身につけ、人と交流し、自然観をはぐくんでいく。全体を通して流れる共通理解は、標本を作って変わりゆく富山の自然を記録することだ。一連の活動は、ボランティア活動にも通じる。

 調査隊には、口コミで人がたくさん集まった。富山市の夫妻は、自然と接している時間を楽しそうに過ごされる。婦中町の夫妻は、いつも新鮮な驚きを持って植物に接している。井波町の四人組は、いつも私を質問責めにする。ナチュラリストもいてお互いが先生となる。気がつけば県内に隊員が散らばっていた。活動の本格的スタートから一年半。ぼちぼち標本が集まり始めた。人々は新しい知識を得る喜びを求めている。この期待にこたえ、郷土の自然を理解するため、活動を続けていかなければならない。(太田道人 2000年5月26日掲載)




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