細胞一つ一つに繊細さ
コケの魅力 (第38回)



  
   
   庄川町の瓜裂清水。名水と親しまれている場所にもコケは生える。
   
 高校の時、雨上がりに陽の下で輝くコケを見るのが好きだった。好きなコケを扱いたいと大学時代から研究テーマはコケにした。当初の思いが今も続いている。

 富山で「コケ」というと、方言でいうところのキノコを指すが、私が採取しているのはスギゴケやゼニゴケの仲間のコケ植物。食べられなくつまらないだろうが、コケを顕微鏡でのぞくと飽きない。形の面白さや美しさ、細胞一つ一つの繊細さに見入ってしまう。

 県内のコケの分布を調べようと、あちこちと出かける。じっくりと地面や岩の上、木の幹にくっついているコケを採取するため、長距離を歩くことはない。採取のために山道を少し離れると、元々が静かな上にさらに静けさが増す。黙々と作業している時に、風や鳥以外の音がすると驚かされるが、それは山菜取りやキノコ取りの人であったりする。だれもいないと思っている所で人に会うのは心臓に悪い。

 その点、平野部での調査は安心できるが、見かけられた人にはけげんな顏をされることが多い。ここ数年間、水中や水の上に浮いて生育するコケを採取して回った。水質の検査員に間違えられ、「コケを採っている」というとガッカリした顏をされたこともあった。コケの人気のなさを思い、こちらもガックリする。

 絶滅が心配される水草があるように、水の中や水の上で生育するコケにも絶滅が心配されている種がある。県内ではカワゴケ、ウキゴケなど五種がそうだ。これらについては特に様子をみていく必要があると思っている。(坂井奈緒子 2000年5月30日掲載)




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