桜を傷つけた犯人は?
展示室の森 (第37回)



  
   
   自然の営みを考えさせる展示室の森
   
 「森の中に寝っころがると、背中が暖かく感じるね」「鳥の巣って、すごく暖かいんだね」。平成八年度に実施した行事に、参加した親子の言葉である。

 この行事では、身も心もゆったりとさせて自然と接する活動を心がけた。感じたことをみんなで分かち合い、お互いの理解と自然への理解を深めた。自然のすばらしさを感じてもらうためだ。自然から学ぶ経験を多く積むことで、目のつけ所や勘がよくなり、自然を大事に思う心が育つはず。そして、その自然が病んでいるときには、何をしなければならないかを考えるようになるに違いない。

 科学文化センターの展示室には、森がつくってある。大きなものではないが、かなりゆったりとした造りになっている。実はこの森には、自然の営みについて考えてもらうためのいくつかの仕掛けがしてある。

 例えば、ブナの倒木に腰掛けて目の前の桜の幹を見上げると、三本線の大きな傷が目に入る。傷をつけた犯人はだれだ。大きさから考えると近くにいるクマの可能性が高いが、そのつめを触ると、傷の幅と合わないことが分かる。「そうか。木は太るから傷口が広がったのに違いない」「ではなぜ、この桜にクマが登ったのだろうか」「なるほど、この木は桜だからサクランボがなっていたのだ。もっと木が細い時に」。クマはそれを食べるために登って傷をつけたのだ。

 これら仕掛けは、自然の中にあるものばかりなのであまり目立たないが、あなたが何かを見つけた時には、気軽にスタッフに尋ねていただきたい。そこからどんどん話が発展していくはずだ。自分で発見し理解したことは絶対に忘れない。山にある本物の森の中では、ぜひ自然の音に耳を澄ませ、森のにおいと風を感じ、発見の喜びをたくさん経験してほしい。(太田道人 2000年5月29日掲載)




 この文章の著作権は北日本新聞社にあります。富山市科学文化センターは使用権を取得し、ここに掲載しております。無断転載を禁止します。