氷河時代の姿ほうふつ
ライチョウ (第45回)



  
   
   夏の立山を表現したジオラマ
   
 科学文化センター自然史展示室の立山のジオラマには、ライチョウが展示してある。ライチョウがすむのは日本では中部地方の高山だけだ。夏の立山ではチングルマなどの高山植物が色とりどりの花を咲かせ、その間をライチョウの親とヒナがエサとなる柔らかい葉を探し求める。ジオラマは、このような夏の立山の一日を再現してある。

 ジオラマを造るとき、モデルとなる場所を探した。条件は、立山連峰が見渡せ、高山の荒荒しさがわかる岩場があり、お花畑が広がる場所だ。みくりが池周辺なども歩いたが、観光ポスターのようで、どうもイメージに合わない。室堂山中腹まで来て見渡すと剣岳から雄山まで一望でき、立山連峰の美しさと厳しさが実感できた。足元にはお花畑が広がり、ライチョウがヒナと歩いている。イメージ通りの場所が見つかった。

 ジオラマでは、岩の上にはヒナをねらうイタチの仲間のオコジョを置き、ライチョウの親が警戒しているようにした。高山の鳥であるカヤクグリとイワヒバリも置いた。時々、お客さんにこれらの動物を探してもらい、あちこちに散らばるライチョウのヒナは数を当ててもらっている。ヒナは草むらや岩陰にかくれ、小さな子供は背伸びしたりして楽しそうに探している。

 ヒナは秋には親と同じくらいにまで成長し、やがて厳しい冬が訪れる。冬のライチョウは雪の下にある植物を鋭いくちばしで探し、雪に穴を掘って休む。体は真っ白になり、足に生える羽毛は寒さをしのいでくれる。ライチョウ冬の生活はいかにも氷河時代の生き残りを感じさせる。

 ライチョウは、国外では北極の周辺に広く分布する。氷河時代、日本列島が大陸と陸続きであったころに日本に渡ってきて、温暖になるとともに高山にすみつくようになったのであろうか。夏の日差しを浴びる立山と色とりどりの高山植物に囲まれたライチョウの展示から氷河時代のライチョウを想像するのも楽しい。(南部久男 2000年6月9日掲載)




 この文章の著作権は北日本新聞社にあります。富山市科学文化センターは使用権を取得し、ここに掲載しております。無断転載を禁止します。