中国南部で類似種確認
ワラジムシのルーツ (第58回)



  
   
   調査した中国雲南省の高黎貢山国家級自然保護区
   
 日本ではダンゴムシも含むワラジムシの研究が有る程度進み、百種余りの新種を含む百五十種の生息を記録した。海のものも自分で記載した70種をふくめ、およそ300種が日本近海にいることが分かった。このうち新種となったワラジムシなどは全て富山市科学文化センターの収蔵庫で大切に保管されている。また、同時に採れた標本は念の為,国立科学博物館や大阪,千葉などの博物館に保管されている。

 しかしこの数字はわが国の全てではない。南の島や洞窟の中、いや富山県でも土の深い層や海岸の砂利の下や岩の割れ目などを探せばまだまだ名前のついていないワラジムシが見つかるだろう。

 研究を進めて行くうちに、日本のワラジムシはどこから来たのかを知りたくなった。明治以降にヨーロッパから入ったと考えられる種類を除いて、人類の歴史以前に日本にすみついている、もともとの日本列島のワラジムシはどこから来たのだろうか。

 種類が北に少なく、南に行くほど多くなるので、南のどこかに違いないと思った。そこで、目をつけたのは中国南部の照葉樹林帯と呼ばれる地域、ならびにミクロネシアやフィリピンの島々である。

 中国の自然保護区に入ることは容易でない。一九六六年、漸く日中の共同調査というこてで、中国雲南省の高黎貢山国家級自然保護区を中心に保山・騰冲地区の陸産等脚目相を調査した。怒江[サルウィン川]上流である。また、大理や昆明、西双版納など雲南省の他の地域の陸産等脚類をも調査した。雨季が終わった十月初めであったが乾燥して生息数はそれほど多くなかった。昆虫を食べたり、蝋燭を灯しての宿泊所の星の美しさに感激したりしながらの調査旅行であったが、多くの未記載種を見つけ,日本の種類のとの類縁が予想外に濃いことを確認した旅であった。

 広大な中国の調査は始めたばかだし、ミクロネシアやフィリピンはこれから各国の研究が進めば、情報を交換しつつ、アジアの、そして全世界のワラジムシを調べ、その関係やルーツを明らかにしたい。 (布村昇 2000年6月28日掲載)




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