氷点下でも凍らない水
雪の展示室 (第6回)



  
   
   水を瞬時に氷に変えていく実験
   
昨年の4月に新しくなった理工展示室。冷凍庫の前で中をジーッとのぞき込んでいる人がいる。庫内の温度はマイナス五度。水が凍っていい温度なのだが、水のままでいる。水を入れたペットボトルが揺れているが、水面が水平に保たれているので、中のものが液体であることがわかる。地味な展示だけれども気がついた人は不思議そうにしばらくたたずむ。使っているのはごく普通の水道水なのだが、「本当に水なのだろうか」と思案する。このような熱心な人を見かけると、うれしくなって普段は横のビデオで見せている実験を実演してみせることになる。

冷凍庫から凍ったボトルを取り出し、まず中が凍る温度であることをわかってもらう。次に水の状態のボトルを取り出し、中の水をシャーレの中の氷の上に少しずつたらす。するとどうだろう、ボトルの口から出た水がシャーレの氷に当たって凍り、氷の柱がみるみる上への伸びていく。この不思議な光景に、「えー」と声を上げない人はない。 凍っていいはずなのに水のままでいる「過冷却の状態」は安定的な状態ではないので、水が氷にぶつかるといったきっかけさえあれば安定的な氷へ瞬時に変化していくのである。展示を見ることで、水は零度で凍るというそれまでの常識がくずれることになるのだが、このような変化は、雲の中では水滴がちりとぶつかって雪の結晶になったりと、ごく普通に起きている現象だ。

雪の展示を始めたのは、身近な現象をじっくりと見てほしいこと、その中に驚きや疑問があり、それを探ることから科学が始まったことを知ってほしいからであった。ともすれば、科学も巨大になり、その力に圧倒されそうになるが、その原点は自然を解き明かすことから始まっていること。宇宙へ人が行く時代でも、まだ身近になぞがあることを知ってほしい。 (元学芸員 石坂雅昭,2000.4.11掲載)




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