絡み合う結晶とらえる
ぼたん雪の撮影 (第11回)



  
   
   多数の結晶が集まったぼたん雪
   
 わざわざ富山を離れて高い山へ行って雪の写真を撮ってきたが、実際に毎日見る富山の雪の写真がないことに気づいた。それは、降っているのが雪の結晶ではなく、それらが絡み合った白い塊だからである。写しても絵にならないだろうと考えていた。雪の展示をしている博物館に、身近な雪の写真がないのはおかしいと思うようになった。

 白い塊は、たくさんの雪の結晶が降ってくる途中で一緒になった雪片と呼ばれる降雪で、大きいものはぼたん雪とも呼ばれている。これは、雪の結晶と同じ撮影方法では写真にならない。大きいのでふつうの顕微鏡では全体を見られない。さらに立体的で厚みがあるので、通常雪の結晶撮影に使われる照明では、ただ黒くなるだけだ。

 そこで考えたのは、比較的大きいものを見るときに使う実体顕微鏡の利用だ。実体顕微鏡は二つの目で見のが普通である。そうすると立体感をもって見ることができる。立体写真を撮ろうと考えたが、雪片となると面倒なことが多い。なにしろ、雪のとける温度の零度付近で降っている。周りの熱ですぐ解け始めるのである。その上、右目の写真を撮って、そして左目と二回の手順が必要である。

 ここでもストロボ照明が役立った。解けるという問題は、直前まで冷やした容器に受けて、短時間で左右二枚の写真を撮りきることで切り抜けた。

 撮った写真を二枚並べて立体眼鏡で初めて見た時は感動した。一枚の写真では、ただたくさん白いものが集まっているようにしか見えないのだが、二枚で見ると雪結晶の絡まっている様子が見事に奥行きを持って見えてくるではないか。そして、結構その姿が美しいのである。

 この立体写真は今はまだ見せる方法が確立していないのだが、いつかはぼたん雪の美しい姿をうまく展示したいと思った。 (元学芸員 石坂雅昭,2000.4.17掲載)




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