世界でまれな北陸の雪
大陸で見た冬 (第12回)



  
   
   明るかった中国東北部の冬
   
 北陸地方に長く住んでいると、ここの雪が普通の雪と思いがちだが、実は世界でも珍しい雪である。それを実感できる機会が訪れた。

 中国黒竜江省で行われる雪害調査団の一員に加わりハルピンに向かった。気象衛星「ひまわり」の画像でおなじみの冬の日本海の雪雲は大陸の寒気が作り出す。その寒気のまっただ中に行こうというのである。調査地域の1月の平均気温は、マイナス20度近く。観光旅行ならいざしらず、調査だから暖かい所に逃げ込むこともできないと。さまざまな防寒を用意していった。

 しかし、その地での第一印象は何という明るい冬だろうかということであった。雪は少ない。もちろん寒いのではあるが、冬はおおかた晴れているのである。考えてみれば、ひまわりの画像でも、雪雲は寒気が大陸から離れるところからできていて、その向こうの大陸は黒々としている。もちろん天気の崩れはある。その時は、細かい雪が風に舞い行き場を定めずに地をはい、やがて吹きだまる。

 中国の雪害は雪が多いからではなく、吹雪が数日続き、視界不良で交通がマヒしたり、吹きだまった雪によるものである。風にあわないようにして車の中から窓越しに外を見ていると、明るい日射しのおかげで寒さを実感しなくなる。所変われば、冬も雪も変わるのである。

 おそらく、この地の人は富山のあのじめじめとした冬と湿って重い雪を想像できないだろう。この地では、雪よりむしろ氷が怖い。川では上流から流れてくる氷が橋げたを襲い、山では地下水が流れ出て、道路一面を氷が覆う。車は断崖を横目に見て、つるつるの氷上をわだちだけを頼り走るのである。生きた心地がしない。

 大陸の雪の広大な面積を考えると、分布ではこちらが普遍的であり、重く深い北陸の雪こそ世界では特殊なのである。 (元学芸員 石坂雅昭,2000.4.18掲載)




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